※※第317話:Make Love(&Sex aid).41








 ナナは初めてのプロジェクションマッピングに感動しすぎて、泣いた。
 可愛すぎて襲ってやりたいくらいの薔は終始我慢をしていた。
 美味しいお昼ご飯を食べて、新しいパジャマを買ってもらったりもしながら、ナナは最終的にはラブホに連れていってもらえるのではないかと期待していた。

 監禁疑惑を深められていっているとはふたりともこれっぽっちも知らない。




 やがて、ラブホで濃密な一休みをすることもなく、帰宅していた。

 (いつの間に――――――っ!?)

 楽しすぎて素直に彼について回っていたナナは、健全というかむしろこの場合不健全とも言える帰宅に驚愕した。
 いつの間にかラブホだった、ではなく、いつの間にかマンションに着いていた、でこの驚き様である。

 「しょしょしょ、薔っ!」
 「ん?」
 荷物をソファに置こうとしている彼の服をくいくいと引っ張り、もうこうなったらナナはばか正直に尋ねるしかなかった。

 「どうなさったんですか!?今日の薔はちょっとおかしいですよ!?」

 と。
 ダーツの矢を投げたときも、ずっと頼もしかったが、同時に危うげな雰囲気を纏ったままでいた。
 だからこそ、優しさも危うい。




 「どこがどんな風におかしいんだよ、」
 「だって優しすぎますし……エッチなホテルにも行きませんでしたし、隠れてチューとかもなかったですし……」
 そのまま荷物を置いた薔は聞き返し、恥ずかしいことを口にするためにナナはもじもじしだす。

 「おかしくなんかねぇよ、我慢してただけだ……」
 微笑んだ彼は彼女の頬をそっと撫でると、本日の収穫物であるザザえもんのTシャツを袋の中から引っ張り出して眺めた。

 「ずっと狙ってはいた……」
 くすくすと笑う薔は、目を逸らしたかったのかもしれない。
 やっぱりどこかおかしいことくらい、ナナにだってよくわかる。



 「でも……」
 何か言いかけようとした彼女の言葉は、不意に、穏やかに遮られた。

 「なあ、」
 Tシャツを見ているようでいて、じつはそうではない。
 薔はとても懐かしい光景を見つめている。

 「おまえ……昔の俺の写真を見て、天使みたいだって言ったよな?」

 今はもうリビングに飾られてはいない写真、あれはアルバムにでも仕舞われたのだろうか。


 「え……?」
 ナナは初めてここに来たときのことを思い出した、彼が憶い出している光景より現在に近いときのことを。
 どうして急に、そんなことを問いかけるのか、今はまだわからない。

 「本当に、天使だったのか?」
 彼女に視線を向けた薔は丁寧にだが無造作に、Tシャツをソファのうえに戻した。

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