※※第317話:Make Love(&Sex aid).41
男子のほうが遠い位置から投げなければならず、その上ボードはおじちゃんが手動で回転させることになっていたが、薔は余裕だった。
ボードが回ってもいなかったときのナナの外しようったら。
「もしや薔は、熊を捕まえたことがあるんですか!?」
「ねえよ。」
落ち着きはらっている彼の立ち振舞いに感心したナナは勢いに任せて確認し、もちろん薔にはそんな経験はなかった。
狼を従えたことなら何度かある。
「で、では、回しま〜す……」
おじちゃんは恐る恐る、ボードを回した。
そして今ごろになって気づいた、このダーツは特にルーレットボードにはなっていないということに。
ルーレットになっていないのをわざわざ回す必要があるのか戸惑ってしまい、中途半端な速度でボードは回り始めた。
すんごいイケメンがダーツコーナーにいるため、すでに周りにはギャラリーができている。
矢を構えた薔はボードを見定め、まずは鋭い視線で射抜いた。
先ほど顔に矢を突き刺される寸前だったおじちゃんはこのときばかりは、殺される……と本気で思った。
あと美しさは罪だとも思った、おじちゃんは生まれて初めて男の子にめちゃくちゃときめいた(こけしちゃんの世界でなら基本的に有り)。
しかしながら薔は彼女が欲しがっているTシャツしか狙っていなかったため、
「おおお…!」
ギャラリーから拍手が巻き起こるほど華麗に、インナーブルのど真ん中へと矢を突き刺した。
おじちゃんはうっとりしながら心底安堵した、熊を捕まえようとした経験がないというのはこうもダーツに影響をもたらすのかと、新しい発見もできてしまった。
「すごいです、薔っ!まん真ん中ですよ!?」
「無駄に回してたからな。」
「えええええっ!?どういうことですか!?」
こうしてメインカップルは、ポケットティッシュ10個と限定Tシャツを手に入れた。
止まっていたにしても回っていたにしてもど真ん中は難しい。
それから、あとでナナは彼に、人前で「まん真ん中」とは言わないよう咎められる羽目になる。
そこはかとなく卑猥なので。
「えっと……ペアルックで着てください……」
いいものを見せてもらえたおじちゃんは、ふたりぶんのTシャツをザザえもんの紙袋に入れて手渡した。
限定Tシャツは二枚に増えた。
「ダーツって楽しいんですね!」
「喜んでるおまえはめちゃくちゃ可愛いが……俺の許可なくしてやるなよ?ダーツ……」
「それはもちろんでございます!」
ナナと薔はふたりっきりワールドで全開で、ミニシアターのコーナーへ向かった。
彼女の腕前を見た彼は今度からはなかなかやらせてくれないと思う。
惚れ惚れと見送るギャラリーができていたダーツコーナーは、しばらく大繁盛した。
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