※※第230話:Make Love(&Nasty).136








 「実穂子、明日は早いんだから、今夜はもう寝なさい。」
 式のために上京し娘に会いに来た葛篭先生の両親は、気を遣わせ過ぎてもいけないと思い娘の部屋に泊まるようなことはせず近くのホテルに予約を取ってあった。
 結婚式の前夜はしっかりと睡眠を取って、お肌の調子も好調で挑みなさいというのが、母なりの隠れたメッセージである。

 「どうせなら、ハリーさんに肩のマッサージでもしてもらいたかったなあ。」
 「あなた、ハリーさんだって今夜はそれどころじゃないのよ?」
 ようやく娘が結婚するという前日に、葛篭の父は感慨深くもあるのか笑って冗談を言ったのだけど、妻に叱られただけだった。


 「………………。」
 マッサージについては心がちくりとした葛篭先生だが、ハリーは今一生懸命に整体師の資格を取ろうとウィーキャンの講座(なんだかごめん)に励んでいるところなので、そのことについては特に触れずにおいた。

 「……お父さん、お母さん、」
 その上で、明日嫁ぐ身として、娘なりの結婚式前夜の挨拶をし始めた。

 「ありきたりな挨拶しか思い浮かばなかったけど、今まで本当にお世話になりました。」









 「やめなさい、実穂子、」
 「お父さん泣いちゃうから、もう。」
 父はうるりときてしまったようで、母がすかさずハンカチを差し出す。

 「……私も、そういうとこ見習わなくちゃ、」
 父と母の様子を見ていた葛篭先生は、決心をしたように微笑んで見せた。

 「ハリーさんにハンカチが必要な時はちゃんと差し出せるように、私も彼を支えていきます。」

 と。




 「実穂子ぉ!」
 父も母も、これには感動して娘を抱きしめた。
 ハンカチは父から母へとさりげなく手渡される、こういった部分も見習いたいなと、葛篭は心で描いていた。
 葛篭の父と母は、娘にはただただ幸せになってほしいと、ハリーには全力で娘を幸せにしてほしいと、心からそう思っていた。




 両親を安心させるためにではなく、自分が幸せになるために結婚というものはするのである。
 急かす親や懸念する親のほうは、そのことについてはいつしか忘れてしまいがちだが。
 親の視点で見る世界が全てだと、子供には押し付けてしまいがちだが。





 「でもね、実穂子、尻に敷くことも大切なことよ!?」
 「こら、母さん!」
 「あははははは!」
 この母からのアドバイスは、素直に受け取ろうと葛篭は思った。
 ハリーも親友夫婦の間柄を見ながら、尻には敷かれたがっておりましたので。

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