※※第229話:Make Love(on Her bed).135
「ナナと薔くんも一緒に食べていくなら、冷やし中華以外にしないといけないわね。」
今夜の夕食のメニューに夫の意向は踏まえることができないため、ナナ母はとにかく濃厚な夜を過ごすためのスタミナ料理に重点を置いて献立を考えていた。
献立を考えながらも、サッポロポテトつぶつぶベジタブルはサクサクとかじっている。
今日はナナ母なりの計らいから、BGMの演歌はキッチン内のみに響くような音量に留めておいた。
まあ、このくらいの音量なら、上で娘夫婦(ではまだないけど)が何か声を出してしまったり物音が立ってしまうようなことをしていても、向こうに演歌は聴こえない上にこちらにもそれらは聞こえては来ないだろう。
と思われるくらいの絶妙な音量で、ナナ母は日本の魂演歌を堪能している。
「それにしても、」
そして、ふと顔を上げたナナ母は、やけに真剣な表情で呟いた。
「やっぱり、似ているわね……」
スナックをかじるのを止め視線を落としたナナ母は、キッチンのテーブルの上に予め持ってきてあったとあるクリエイター雑誌を手に取る。
その表紙を飾っているのは、世界的に活躍をしているカメラマンの夕月だった。
しかもナナ母は偶然にも、スーパーマーケットで本人と出くわしたことがある。
今日、娘と一緒に訪ねてきた薔を見て、やはり思ってしまった。
薔と夕月はあまりにも、似過ぎていると――――――…
それは、他人の空似という類のものではなく、“血の繋がった親子が雰囲気まで似てしまっている“、というものに他ならなかった。
そっくりであるというレベルの話ではない、おそらく、本人同士を見れば否応なしにひしひしと伝わってくるような相似をふたりはしているのだ。
黙って雑誌に載った夕月の写真を眺めていたナナ母は、思い立ったようにパタリと閉じると、
「止めましょ、これこそがまさに野暮というものよね。」
何事もなかったかのように、いったん雑誌をキッチンの棚に仕舞い込んだ。
やはりナナ母は、いくら気になっていれども野暮が大嫌いでした。
「スタミナと言ったら、牛もも肉に豚肉に、鶏肉かしらね、そうなるとお肉だらけだからニラやモロヘイヤなんかもいいわね。残念ながらスッポンは置いてないのよね。」
ひたすらスタミナ重視で食材を冷蔵庫から取り出したナナ母は、スッポンの取り揃えがないことを非常に残念がった。
さすがにスッポンを常備してあるご家庭は、そうそうないかと(あとスーパーマーケットも)。
スタミナ満点料理については、あくまで粋な計らいであって、野暮というくくりには含まれないようです。
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