※※第229話:Make Love(on Her bed).135








 屡薇の素直な気持ちを知った上で、無事に仲直りすることができ、おまけにもう明かされてはいるがサプライズが待ち受けていることに真依は仕事の最中顔が緩みっ放しだった。
 あのあと彼のバンドの公式ホームページでチェックしてみたが、新曲の情報はまだ掲載されていなかった。
 仲直りするためのでまかせだったのかと、そこでちょっとだけ訝しげになったのも束の間で、バンドのベーシストの鴉姫がTwitterでどことなく新曲製作中であることをにおわす呟きをしていたのである。

 と言うことで、真依のご機嫌具合は止まる処を知らなかった。




 「今日の真依ちゃんは何か、いつもと違うね……」
 「あんなに嬉しそうに仕事捗らせているのは、初めて見ましたね……」
 先日はかなり挙動不審だったために心配していた美容師仲間たちも、とりあえずホッとしている。
 これが彼氏の前になるととたんに、喜びをひた隠しにするのが真依でございますが。


 (そういえば、エッチがお預けになってるんだった…)
 改めて、次会うときはどうなるのかについて思いを馳せてみた真依は、恥ずかしさのあまりいてもたってもいられなくなり見事なまでの手捌きでお客さんの髪をカットし始めた。
 今日の真依ちゃんはやっぱりいつもと違うな〜と、店長さんも同僚たちもお得意さんも感心しておりますが、心中はかなり、悶々としちゃっているんです。















 ――――――――…

 「屡薇が今日は絶好調だな。」
 「だな、ムカつくくらいに絶好調だな……しかもなんか調子こいてる感が半端ねぇし……」
 休憩中にメンバーたちは、今日は一度たりとも音を外したりはしない屡薇の姿に、感心しつつもちょっとだけ腹が立ったりしていた。


 「やっぱ才能の話だよな、これ。」
 張り切りすぎてかいた汗をタオルで拭った屡薇は、俺のマカ一本をぐびっと飲む。
 彼女と無事に仲直りできたので、もうマグナムとやらの管理について心配する必要はないのであります。


 「良かったな……屡薇、元気になって……」
 今回、ちょっとした後押しはしたもののまったく頼りにされなかったボーカルの摩闍は、スタジオの照明を背にかなりの哀愁を帯びていた。
 ちなみに、元気のよい屡薇をしょぼんとした摩闍が見守る姿は、鴉姫がばっちりスマホ(りんごのほう)のカメラに収める。

 「なんか元気ねぇな、摩闍。俺のマカ一本飲んどけば?」
 屡薇はあっけらかんとして、栄養ドリンクをボーカルくんへと勧めて、
 「まあ、そうするわ……」
 摩闍は目の前に座り、キャップを開ける。



 「いやあ、それにしても薔ちゃんは頼りになるわあ!」
 ようやく栄養ドリンクを飲む気になったメンバーへと、屡薇は追い討ちをかけ、
 「おれの悩みも打ち明けてぇえ!」
 どうすれば頼り甲斐を手に入れることができるのか、摩闍も相談したい気分になっていた。

 「ダメだよ、薔ちゃんは俺の親友だもん。」
 「おれも親友になりてぇえ!」
 公式な親友かは定かではありませんが、要するにこけし姉さんや真依が非常に悦びそうな会話が繰り広げられております。



 「まさかの三角関係……」
 「やめろ……いつもお世話になってる薔くんに失礼だぞ……」
 「その通りだ……」
 他のメンバーたちはさほどあたたかくもない目で、ふたりの光景を眺めていた。

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