※※第228話:Make Love(&Sexily).134
「ん……」
やわらかくてあたたかくて、卑怯なキスだった。
こんなキスを好きなひとにされてしまえば、殴る気なんてたちまち失せてしまう。
真依は拳を作っていた手を解き、彼の服をきゅっと掴んだ。
ディープの手前でくちびるは触れあい、玄関へとリップ音が響く。
ほんとうはこんなふうに触れあいたくて、けれど触れあうことから逃げていた後のくちづけは蕩けるくらいに甘くて、
「……俺、真依さんの全部が大好きだよ?何があっても、離したくねぇよ……だから真依さんも、今は素直に言って?」
そっとくちびるを放した屡薇は、彼女の頬を撫でながら求めた。
「なんか…っ、もうすっごいっ……卑怯…だけど…っ、……ずっと…っ、あたしには……屡薇くんしか、いないよっ……大好き…だよ……」
年下のくせに生意気な……とか思いながら、真依は素直に告げていた。
屡薇は嬉しそうに笑って、おでこにもキスをしてくれる。
ただの断片となった歌詞たちは、床で大人しく息を潜めていた、ふたりの邪魔をしないように、ふたりを祝福するように。
だからこそ、今があって、未来が見えているのかもしれない。
「あ、そういえばさっきちょっとだけ俺、薔ちゃんに惚れかけた……」
「それなら許す!」
屡薇は彼女をからかいたいがために、思い出したように口にして、真依はあからさまに興奮した。
まあ、屡薇にとってみれば、思った通りの反応だったのだけど、
「そこはやきもち妬いてよ……」
くすっと笑ってやわらかなキスを落とし、笑いながら残念そうに明かした。
「ほんとはこのままエッチに持ち込みたかったんだけど、俺じつはこれから打ち合わせがあんだよね。」
と。
「打ち合わせは大事だから、行ってよ!?遅刻しちゃダメだよ!?」
下心を包み隠さず明かされた真依は真っ赤となり、本心ではこのままエッチに持ち込まれたかったのだけど、彼を急かした。
「真依さんとせっかく仲直りできたのに〜!」
「いいから行ってよ、あたしはもう逃げないから!この歌詞は、拾っておくから!」
屡薇は名残惜しげで、真依はひたすらに彼を急かし、
「あ、大丈夫、これは俺が拾ってく。」
しゃがんだ屡薇はばらばらになった歌詞を集め、拾い上げた。
「真依さんの大事なお姉さんのためにも、責任持って俺が燃やしておく、きっとそれが一番いいと思うから。」
彼は、亡き彼女のために作った歌詞を、真依との今に繋げてくれた思い出として、燃やすつもりでいるようだ。
煙となったメロディーは、空で見守る彼女へと響いてくれることだろう。
真依はわざと彼が、名前で言わなかったことが感慨深くてまた泣きそうになって、
「てことで、真依さん、」
打ち合わせへと向かう際に、屡薇は当たり前のような笑みと共に言い残していった。
「次会うときは、なるべく時間作ってくるからエッチしまくろうね!」
「もうっ、ばか!」
いったんお預けといったところか、真依が恥ずかしさのあまり憤慨した頃にはすでにドアは閉められており、
くすっ…
と笑った真依は、買ってきた食材を仕舞うのを忘れていたことに気づき慌ててキッチンへと向かいながら思わず呟いてしまった。
「そうか……屡薇くん、本命はやっぱりお隣さんか……」
…――――悦ぶとこそこか(大先輩には褒められるよ)!
ひとまず、屡薇と真依の愛は、深まって一件落着です、エッチはお預けとなっておりますが。
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