※※第228話:Make Love(&Sexily).134








 帰宅をした真依は、ふたりぶんを目安に買ってきた食材を見て、再び溜め息をついた。
 昨日あんな逃げ方をしてしまったからか、今日は彼から連絡のひとつも来ていない。

 これは本格的に別れることになるだろうな、最悪の場合は自然消滅かもしれないとか考えだすと悲しくて切なくて、じわりと涙が滲んだ。



 彼のバンドのCDやなんかは、音楽には罪はないのだがどうするべきかと、悩む。

 そのときだった。

 ピンポーン

 部屋の中に、チャイムの音が鳴り響いた。
 ビクッとなった真依は思わず、手にしていたにんじんの袋を落っことしてしまった。






 「真依さん、いるよね?開けてよ、ここ。」
 チャイムの後には、ドアの外からやけに息を切らしている屡薇の声が聞こえてきた。
 (どどどどどうしよう!?)
 涙目の真依はひたすらに焦る。
 居留守を使いたい気持ちはあったが、物音を立ててしまったし、キッチンに灯した明かりが外に漏れ出していることは確実だった。
 まさか改めて別れ話をしに来たんじゃ……と、恐れる真依は息を潜める。

 そのとき、

 「ごめん、開けてくんねぇならこのドア蹴破るね?修理費は全額俺が出すから安心して。」

 屡薇がとんでもないことを言い放ったのだ。





 「ちょっと!やめてよ!」
 ドアを蹴破られたらたまったものではないと、真依は慌ててドアを開ける。

 その瞬間、彼の表情が今はどんなか、そんなことすら確かめる間も与えられずに、

 ギュッ――――…

 抱きしめられていた。

 「よかった……やっと捕まえられた……」














 「は、離してよっ……」
 真依が抵抗を見せている間に、ドアは閉められ後ろ手に施錠をされる。

 「やだよ、俺は真依さんのこと、離したりしねぇよ。」
 きっぱりと返した屡薇は、強く抱きしめたまま彼女のあたまを撫でると、

 「見ててね?これが俺なりの、真依さんへの誠意だから。」

 いったん少しだけ放れ、真依の目の前で祥子のために書いた歌詞をびりびりと破き始めた。
 歌詞は断片となり、玄関の床に散ってゆく。


 「やだっ!やめてよ、これは屡薇くんがお姉ちゃんのために書いた曲なんでしょ!?」
 真依は必死になって制止しようとしたが、彼の決心は固く、止めることはできはしなかった。

 「いいんだ、俺には今、真依さんしかいねぇから。」
 過去をばらばらに破り捨てた屡薇は、穏やかな表情で笑って、

 「だからって何も、破かなくても……」

 真依は慌ててそれらを、拾い集めようとした。


 しゃがみ込もうとした彼女を、再び強く抱き止めた屡薇は、

 「ごめんね?不安にさせて……、後で俺のこと一発くらいは殴ってもいいよ?」

 真依の背中をさすりながら、照れくさそうに口にした。

 「あーあ、サプライズしようと思ってたのに、今言うしかなくなっちゃったよ。」

[ 466/535 ]

[前へ] [次へ]

[ページを選ぶ]

[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]


戻る