※※第228話:Make Love(&Sexily).134







 「もう俺正直、どうやって真依さんにちゃんと気持ちを伝えたらいいのか……よくわかんね……だって、いつも逃げられちまうし……」
 苦しげに呟いた屡薇は、さらに俯いた。
 逃げられてしまっているこの状態で、どうしたら彼女とちゃんと向き合って話をできるのかを見失いそうになっていた。
 正直彼は、自分の詰めの甘さが彼女を傷つけてしまったこともあり、臆病になっていた。


 その隣から、

 「お前ってほんと、どうしようもねえバカだな?」

 呆れた様子で、薔は容赦なく言い放った。

 「逃げられてんじゃねぇだろ、お前が易々と逃がしてんだろうが。」










 「え……?」
 不安だらけでいた屡薇は、ふと、顔を上げる。

 「昨日の夜、逃がさねぇでちゃんと素直な気持ちを伝え合ってたら、今日の今頃は一緒に過ごせてたかもしんねぇのにな、」
 目の前のネオンたちを見やりながら、薔は嘲笑した。

 「まあ、それは昨日の事だ。過ぎちまったもんは今さらどうにもできねぇが、これから先の事なら自分の手でいくらでも、変えてくことができんだよ、お前はただそれをやってねぇだけの話だ。俺んとこに下らねえ相談に来てる暇があんなら、今すぐ会いに行って来い。」
 それから薔は屡薇のほうを見やると、堂々と彼の背中を言葉で押したのだった。

 「好きな女が目の前にいたら、ましてやそいつの気持ちをちゃんと知ってんなら、何言われたって何されたって逃がすんじゃねぇよ、しっかり捕まえとけ。」










 その言葉たちは同時に、過去は変えられない、そして未来は自分の手で変えてゆけるのだということを、物語ってくれていた。
 息を呑んだ屡薇は、拳と共に、とある決心を固める。


 「ちなみに俺は今、ナナと一緒にいられるはずの時間をお前に阻害されている。」
 本来なら何の邪魔もなく彼女とイチャイチャできている時間帯のため、薔はいささか不機嫌となりつつ屡薇を諭した。
 「やばい……なんかもう俺、薔ちゃんに惚れそう……」
 「……いっそここから突き落としてやろうか?」
 「ヴァンパイアだったらどうってことねぇけど、俺だとたぶん死んじゃう……」
 ふたりの親睦はさらに深まったんだかは定かではないが(言うまでもないかもしれませんが屡薇のほうが5つ年上)、容赦なく背中を押してもらえた屡薇は感極まった様子で、真依のもとへと向かう体勢に入った。

 「ありがとう、薔ちゃん!やっぱ薔ちゃんが一番頼りになるわ!」





 この頃、屡薇のバンドのボーカルこと摩闍は、くしゃみでもしちゃっていたかもしれない。

 きちんと礼を述べてからリビングへと向かう窓を開けた屡薇は、目を閉じて確かめた。

 「嫁さんは今ソファのほうにいる!?」












 「え…っ!?あっ、はい……」
 ソファにてちょこんと待機していたナナは、ビクッとなって答え、

 「じゃあ俺こっち見ながら走ってくわ、お邪魔しました!豆のことはまだよろしくね!?」

 極力対面式キッチンのほうを向きながら屡薇は走り、リビングを後にしたのだった。

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