※※第217話:Make Love(&Seek).126







 「おい、勝手なイメージで俺を語んな、めんどくせぇな、」
 褒め称えられた薔だが、不本意そうに溜め息をついた。
 辞書が必要となっていたナナの、イライラも再びである。


 「お前にとって完璧に見える俺って、どんなんだよ、」
 萌の言葉について呆れかえっている薔は、きっぱりと返した。

 「俺はすげえ嫉妬深ぇし、独占欲も強い、ナナにだけは意地悪してやりたくなるし、こいつの泣き顔が見てぇからわざといじめて泣かせたりもする、要するに酷でぇ男だ、」







 「好きな女の前では、完璧なんかやってらんねぇんだよ。」














 ナナのイライラはたちまち、吹っ飛びました。
 嬉しくて顔を真っ赤にしてしまった。

 「行くぞ?」
 「あっ、はい……」
 ここで退治は終了し、薔はぐいぐいとナナの手を引いて放送室を後にした。
 邪魔をしないよう、ささっと隣の壁に移動し、萌はちゃんとふたりが教室に帰れるようにした。


 愛は互いに完璧を求めるものではなく、本能のままに相手を欲しがるものなのだろう。





 完璧のイメージを本人に否定され、幻滅するどころかときめきすぎた萌ちゃんは、腰が砕けたようでガクンッと床にへたり込み、もう二度と嫌がらせをしないことを心に誓った。

 「やばい、腰砕けますね……」
 「僕もああいう台詞、死ぬまでに一度は言ってみたいよ……」
 うっとりの副部長さんと部長くんが、校内放送を締めくくった。
 よって、ここまでばっちり学校の皆さんに聞かれていました。



 「腰が砕けてなかったら……1-6まで説教に行くんだけど……」
 「果蘭姉さん……ホシはまだ放送室にいると思います……」
 「それもそうか……」
 自分もあんなこと言われてみたい……とか思いながら皆さんはしばらく陶酔していた。
 と言いますことで、萌は後で先輩がたから改めて説教をしてもらうこととなった。


 「だからあたしにしておけば良かったのに……」
 フフフと笑うあかりは、クラスメートの萌のこともかなり気に入っているようだ。
 先日味わったホラーがなかなかの快感となっていた。












 「あのっ……名探偵さまの推理は、外れましたねっ…?」
 強引に手を引かれて教室へと戻る最中に、ナナは嬉しさのあまり彼をからかってみようとしたのだけど、
 「……誰が名探偵だよ、」
 歩きながら振り向いた薔は少し照れくさそうにしていた。

 (かっ、かわいいっ…!)
 ふいっと彼が前を向いてしまってから、ナナは思わず顔が思い切り綻び、

 (う…っ、いけないっ……!)

 努めて、眉間に皺が寄るほどキリリとしてみた。
 ナナは気が緩むと表情も緩んでしまうために、この後は真剣そうな表情を作るようひたすら心掛けて過ごすことにした。




 彼に連れられて教室に戻ってきた親友の表情に(ナナちゃぁん、やぁっぱり萌ちゃぁんには怒ってるのかなぁぁ?)と思ったこけしちゃんは、もうすぐ予鈴が鳴りそうななかニコニコと声を掛けてみた。

 「解決できてぇぇ、良かったねぇ?ナナちゃぁん。」







 「あっ!こけしちゃん!そうなんだよ!もーうっ、薔ったらあんなこと言ってくださるからっ…」
 親友の言葉にこれでもかと言うほどニヘラとしてしまったナナは、また慌てて真剣さを装った。

 (なるほどぉぉ。)
 怒っているわけではないのだと理解できたこけしちゃんは、可愛くラッピングした袋をナナへと差し出し、おっとりこそこそと言いました。

 「あのねぇ、これ改めてぇぇ、ナナちゃぁんと薔くぅんがぁ、結婚騒動のときにあたしとゾーラ先生ぇを助けてくれたお礼ねぇぇ?遅くなっちゃったけどぉ、あのときはどうもぉぉ、ありがとうぅ。」

 と。




 「えっ!?そんな、こけしちゃん、わざわざありがとう!」
 驚きながらもナナは、市販のチョコレートが何種類か詰まった袋をありがたく受け取り、
 「お家に帰ったらぁ、薔くぅんと仲良く食べてねぇぇ?」
 「うん、そうするよ!」
 にっこにこと手を振りながら、こけしちゃんは席へと戻っていった。

 「それから明日にはぁ、新作お貸しできるかなぁぁ?」
 とまで、言い残して。






 (うはぁ!)
 チョコレートの袋を手にしたまんま、ナナはそら昂った。
 昂りながらも真剣な表情は何とか保っていた。
 新作とはもちろん、例の禁断のノートのことでございます。

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