※※第216話:Make Love(&Sex aid).20
ちょっと遅めとなってしまったけれど、わんこたちも揃って仲良く夕食を済ませました。
エッチをしちゃったこともあり、ナナは率先して途中からは彼のお手伝いもした。
一緒にお風呂に入って、ベッドに入ってからもイチャイチャして、幸せな気分で眠りに就いた。
そんなあたたかな夜に、ナナは悪夢を見た。
「やあ、」
夢の中で、一番に会いたくない人物を目の前にして、ナナはこれは夢なのだと不思議と悟ることができていた。
ふたりのあいだを舞ってゆく白い薔薇の花びらたちと、ふたりが対峙する何もない荒野はあまりにも不釣り合いだった。
竜紀のモスグリーンのコートは、風に揺らめいている。
ナナは男を睨みつけていたが、声を出すことは不可能だった、自分の夢の中だと言うのに。
「俺が預かっていた記憶を、一時だけ君に返してあげたよ。」
竜紀は右手を伸ばし、ゆびさきを白い花びらたちが滑っていった。
荒れているのに無機質な空間だ、ナナは気味の悪い眩暈を覚える。
「君にはわかるかな?俺のこの狂いだしそうな感覚……」
薔薇の花びらに視線を落とし、竜紀は言葉を投げ掛けた。
突風はその言葉を連れ去ることなく、ナナの耳へと届かせた。
「絶望だらけだった俺の人生を……唯一、救ってくれたのは薔なんだ。俺にとってあの子は、ばらばらに壊してあげたい神様なんだよ。」
神様をばらばらに壊したいなどという感覚は、ナナには到底理解のできるものではなかった。
理解したいと思える感覚でもなかった。
過去に触れた優しさに依存しているのか、竜紀は底知れぬ闇を心に抱えているのか。
どんな理由があるにせよ、薔を傷つけてもいい理由は一つもない。
渦巻く暗澹に呑まれないよう、ナナはずっと、鋭い視線を竜紀に向けていた。
「そろそろ崩れるね……伝えておきたいことは伝えておかなくちゃ、」
男はコートの裾から、どす黒い砂となって風に舞い始めた。
何があっても薔を守るという決心をナナも伝えてやりたくて仕方なかったが、生憎声は出ては来なかった。
それでも必死になって口を動かすナナの目の前で、竜紀はどんどん黒い砂になってゆく。
「この夢も、目覚めた時には忘れているから、安心しておやすみ……」
やがて花びらを幾枚か掴んだ竜紀は、恐ろしいほど穏やかな微笑みを残し跡形もなく消えていった。
男が掴めば白い花びらさえも、黒い砂となり風に舞った。
「君が俺に辿り着けたら、俺が薔をもらう番だ……」
…――――――ナナが命懸けで薔を守ろうとすれば、薔が命を懸けてナナを守るだろう。
竜紀はナナを、この世から消すことのできる唯一の存在だ。
運命とは、皮肉だ、
皮肉だからこそ運命と呼ぶのかもしれない。
…――My life is for you.
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