※※第207話:Make Love(&Sex aid).17













 …――――現に毒牙を、夢にも扇動を、

 不自由に囲われた自由な籠の中で狂おしい愛に囚われている。














 「マサの娘サンの旦那サーン、何卒お頼み申ス〜!」
 愛の巣のリビングにて、ハリーは土下座をして頼み込んだ。
 床にゴチンと思い切りおでこが当たって、ソファに座るナナと傍らに寄り添う花子と豆はビクッとなる。
 彼女の隣に並んで座っている薔はハリーに対しては非常にめんどくさそうにしている、が、旦那さんにはまったく悪い気はしていない。
 すでに夕食も後片付けも済ませたあと、土曜日の夜のお話でございます。

 顔を上げたハリーは赤いおでこで縋るような目つきで薔を見上げたのだけど、薔はお構いなしに隣のナナを見ていた。
 ビクッとなった姿も可愛らしかったからだ。


 「薔っ、甘い言葉ですって!」
 ナナは何となく、瞳を輝かせワクワクし始め、
 「そんなん俺に聞かれてもな、」
 薔は彼女の耳たぶをふにふにし始める。


 「あんま言わねぇからよくわかんねぇよ、つうかおまえの耳朶ってすげえ気持ちいいよな?」
 「ちょ…っ、あの…っ、くすぐったいですっ……」
 耳たぶを弄られるナナは甘ったるい声を上げ、彼はムラッときちゃったようだ。

 ……言わないの?ほんとうに言わないの?




 「あノ〜、ワタクシここに存在してますデショウカ〜?」
 存在を忘れられている感が否めないハリーは瞳を潤ますのだが、見てはもらえていない。
 豆と花子は寄り添って、見守るようにのほほんとし始める。


 「まぁ、俺の嫁の父親の親友の頼みだからな、聞いてやらなくもねぇが、」
 「ほええ…っ!?」
 “嫁”と呼びたいだけの薔はそれでも、ナナの耳たぶをふにふにしながらハリーのほうを見やった。

 「ありがたき幸セ!」
 ハリーは年にそぐわないほどファンシーなメモ帳とペンをポケットから取り出す。



 「きょ…っ、今日はわたしっ……辞書を、用意してあります…っ、」
 耳たぶを弄られ感じてしまいながらも、ナナは引く頻度は別としての愛用の辞書を手にして言った。

 「そうか、偉いな?俺の嫁は、」
 「え…っ、えへへっ……って、やっぱり嫁ですかぁあ!?」
 「当たり前だろ?」
 今度はあたまをなでなでしてもらえて、俺の嫁多用にナナは照れまくる。
 手を放された耳たぶは熱くなり、もっと弄られたい衝動に駆られる。

 ハリーの、存在忘れられている感が否めない状況、再びである。





 「純白のドレスを、あんたが着ろっつっても葛篭は嫌がってんだろ?その場合に掛けてやる甘ぇ言葉だったよな?」
 「その通りデース!」
 確かめられたハリーは存在していたことにも歓喜しながら、ファンシーなメモ帳を開きファンシーなペンを握りしめた。
 ナナはドキドキと、旦那(ではまだないけど)による甘い言葉講座に耳を傾けていた。

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