※※第206話:Make Love(&Public sex).3








 常設展のほうは、主に絵画と彫刻だった。


 (お尻……)
 お尻のみがモチーフの彫刻という、どことなく張りの具合からして男性のものっぽいためこけし姉さんが確実に喜びそうな作品の前で、ナナは呆気にとられている。
 滅多に来ることのない美術館という場所で、こんなにもお尻っぽいお尻に巡り会えるとは思わなかった。

 彫刻家の名前は男性のようで(こけし姉さんがさらに喜ぶポイント)、作品のタイトルは『臀部』である。
 わりとそのまんまのタイトルだった。


 「おい、何でそればっか見てんだよ、」
 「だって、お尻ですよ…?」
 薔は彼女の手を引っ張ってお尻からは離れさせ、

 「こっちもお尻でした…」
 「……早く向こう行くぞ?」

 たのだが隣にはちょっと小さめの、ぷりっとしたいかにも女性っぽいお尻があった。
 これもまた芸術か、はたまた館長さんの抑えきれないお尻への欲求なのか。





 「前の部分じゃなくて良かったですね…?」
 「あんまやらしいこと言うな。」
 「えええ…!?」
 芸術だとすれば前の部分もじゅうぶんすぎるほどにあり得るのだけど、とりあえずはお尻しかなく、さらりと返した薔と真っ赤になったナナは絵画のほうへと向かっていった。















 ――――――――…

 「ワタクシはどうしテモ、実穂子サンに純白のウェディングドレスを着てほしいのデース!」
 ナナ宅のリビングにて、ナナ母とお茶を飲みお菓子を食べながら、ウェディングドレスのカタログを眺めるハリーは泣いていた。

 「しかしながら実穂子サンハ〜、純白のドレスは嫌だと言ってワタクシの願いを聞いてはくれマセーン!」
 高い鼻を赤くして泣きじゃくるハリーが、かなり鬱陶しくもあるのだけど、

 「葛篭先生はきっと、お年のことを意識しすぎて気が引けているのよ。」

 ビッグカツを食べながらナナ母は力強く助言を与えた。

 「ハリーさん?泣いてばっかりいないで、そんな彼女へ甘い言葉を掛けてその気にさせてあげるのが男というものでしょう?」

 と。





 「それもそうデスネ〜、ハニーさんのおっしゃる通りデース!」
 胡散臭いくらいにハリーはたちまち明るくなった。
 ナナ母はもう一つビッグカツを手に取る。

 「しかしながらワタクシ〜、実穂子サンをその気にさせられるような甘い言葉など、ひとっつも思い浮かびマセーン!」
 ハリーももう一つビッグカツを手にすると、またしても瞳をURUURUとさせ、

 「甘い言葉と言えば……とっても頼りになる子がいるじゃないの。」

 ナナ母は勢いよくビッグカツをかじった。



 「いらっしゃいマシタ〜!」
 ハリーは瞳を輝かせ、ビッグカツの封を切る。
 ふたりの会話からして、ハリーが唯一男の中の男と認めているらしいナナ父の話では到底なさそうだ。

 「野暮はしないように、訪ねる時間帯には気を遣うのよ?とりあえず演歌を聴いて気合いを入れましょう。」
 「Ye〜s!」
 またしても何かしらの特訓の予感か、ふたりはひとまずビッグカツを食べながら演歌を聴くことにした。

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