※※第206話:Make Love(&Public sex).3
んじっ…
ナナは滅多に来ることのない美術館にて、真剣に写真たちを眺めていた。
正直、パンフレットと照らし合わせてみたところで誰が写っているのかはよくわからない。
ただ、写真は被写体に合わせて生き生きとしていたり、時に背景にある物悲しさを物語ったりとどれもすばらしいものであることは確かだった。
夕月の写真展は三階で開催されており、二階は常設展となっている。
美術館は平日の午後でも来館者は多く、それでいて騒がしくない落ち着いた雰囲気を保ち続けていた。
「夕月さんには申し訳ないですが、どなただかまったくわからないです……ものすごくきれいなかたではありますけど……」
と、まじまじと有名な女優さんの写真パネルを見ているナナの姿に、笑いを堪えている薔は、
ふにっ…
皺を寄せている彼女の眉間へと人差し指を当ててきた。
びくっとなったナナの、眉間の皺はどこへやら。
薔はしばらく眉間を人差し指でやさしくふにふにしてから、次の写真へと彼女の手を引いて歩きだす。
なんだかくすぐったくて熱くなってしまった眉間へと、ナナはそっと手を当ててから、
「こっ、これは、誰ですか?」
周りの雰囲気に合わせて、彼へと耳打ちして尋ねてみた。
パンフレットを見れば名前はわかるのだけど、くすぐったさからの耳打ちだと思ってください。
彼女の耳打ちのあと、すぐに薔も耳打ちで返してくれた。
「自分で調べろよ、俺はおまえを眺めてんだから…」
自分もこんなふうにできたのかはよくわからないのだけど、あたたかく吐息が耳を撫でてますますくすぐったくなったナナは、照れて俯きがちとなる。
薔はくすっと笑って、彼女の手を引きゆっくりと大きな写真の前を歩いてゆく。
ふと、入り口に立っていた美術館スタッフのもとへ、別のスタッフが赤い薔薇の映える白い一輪挿しを手渡した。
それは写真展入り口にあるカウンターの上に置かれ、ナナと薔がついでに常設展へと向かう頃にはちゃっかりお見送りをしてくれたのだった。
さすがは夕月さんです!と思ったナナは、入ってくるときにはなかったことにもちゃんと気づいていた。
さすが、薔薇については抜かりありません、最初の一文字しか未だに書けはしませんが。
まあ、もうかたほうは真依に任せておけばいいので。
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