※※第205話:Make Love(&Beloved).120
「え…っ?」
ドキッとしたナナは彼と共に伸ばす手を引っ込めようとしたが叶わず、呆気なくナイフの柄はふたりの手のなかにあった。
「や…っ、やです…っ、」
ナナは必死になって首を横に振るものの、りんごの果汁に艶めく銀色の刃は薔の首もとへと当てられる。
「どうして?欲しかったんだろ?ご褒美…」
妖しく微笑みかけた薔は、何の躊躇いもなく肌へとナイフを滑らせた。
ナナは痛哭を死に物狂いで押し殺し、決して彼から目を逸らそうとはしなかった。
どれだけ不安定でも、愛には何一つ揺るぎはないのだ。
筋を引いた血液はなめらかな肌を伝い落ち、白いシャツまでじわじわと赤く染めていった。
血が滲んだナイフはテーブルのうえへと無造作に置かれる。
「どうせならご褒美はとびきり、エロいのが良かったか?」
首もとから血を流す薔は、少し悪戯っぽく笑うとシャツのボタンを外してゆく。
「い、いえ……こちらもじゅうぶんすぎるほどに、なんか……すごく、エッチです……」
先ほどまでの悲壮感は、彼の余裕がかき消したようだ。
息を呑んだナナはただただ、覗いてゆく美しい胸元に魅入る。
「じゃあ…おいで?」
ボタンを全て外すようなことはせず、いくつか外してから薔は彼女を抱いてソファへと倒れた。
倒れた拍子にシャツは色っぽくはだけ、ナナは彼が血を流しているというのにひどく興奮してしまった……と、そもそもナナはヴァンパイアであるのか。
傷は深いものではなかった。
それでも未だじわじわと滲んでくる血の赤は、方向を変えて流れようとし始める。
「……舐めねぇのか?」
肘掛けのうえで少し乱れた髪、艶く視線で、薔は彼女を誘惑する。
「え…っ?あ…っ、すみませ…っ、」
見惚れていたナナは我に返ると慌てて、
彼の肌、その血液へと舌を這わせた。
「は……」
薔が吐息を漏らす。
ナナは刺激をされる。
血液の味には少しでも、りんごの果汁が混じっているのだろうか?
ナナにはそれは、わからなかった、どこを舐めても甘美な彼の血の味しかしなかった。
「ん……」
まずは傷の周りを舐めてから、傷口へとやさしく吸いつく。
「……っ、」
躰をふるわした薔は彼女の髪へと、ゆびを絡めて撫でる。
ソファが微かに軋む。
「ん…っ、ナナ……」
赤い傷に舌を這わされ、彼は甘い声で彼女を呼ぶ。
おかしくなりそうだった、何もかもが哀しいくらいに甘過ぎて。
[ 118/535 ][前へ] [次へ]
[ページを選ぶ]
[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]
戻る