※※第202話:Make Love(&Cuteness).119








 テスト前ということもあり、本日からはどの部活もいったん活動がお休みとなった。
 醐留権先生は職員室にて、鬼のように熱心に(鬼が熱心に公務に励むかは定かではないが)公務に励んでいる。


 夜の雨に向けて連日帰り道は曇り空だったが、本日は抜けるような青空だった。
 青はだんだんと赤に向かい、ここでは沈むが別の街へと新しい青を届けるのだろう。



 「今日も帰ったらお勉強なんですか?」
 手を繋いで歩く帰り道、口を尖らせたナナは彼へと尋ねてみた。

 「おまえそれ、狙ってやってんのか?」
 薔は彼女の可愛さにムラッときちゃったようで、
 「何を狙うんですか?」
 意図的にやってはいないためナナは目をぱちくりさせた。


 「はぁ……」
 深い溜め息をついた薔は、彼女と反対側、つまり道路側へと顔を隠すように向いてしまった。
 「どっ、どうなさったんですか?」
 自分はいったい何を狙ってしまったのかと、ナナは慌てふためく。

 すると、

 「おまえはいちいち可愛すぎんだよ…」

 顔を逸らしたままの薔は、耳まで赤くしているようだった。


 照れが移ってしまったのか、同じく耳まで赤くしたナナはちょっと俯く。
 ふたりのあいだをしばしの沈黙が流れたが、全く気まずくはなかった。
 心地がよくて、繋いだ手が互いに熱くなった気がしている。
 ふたりでいれば、言葉でなくとも伝えられることはたくさんあるのだから。



 薔は俯いてしまった彼女を見ながら、辺りの様子を確認すると、

 グイッ――――…

 いきなりその手を引っ張って、背中を歩道の端のフェンスへと押し当てた。
 それは公園を囲むフェンスで、後ろはちょうど木陰となっているため遊具で遊んでいる子供がいても死角となって見えないだろう。





 「キスしてもいいか?」
 両手で金網を掴んで彼女を隠すようにして、逃げられないようにして、薔は確かめてくる。
 (あ……)
 ナナが応える前に、くちびるは今にも触れあいそうになった。



 ところが、

 「………………、」

 触れあう手前で、離れていってしまったのだ。



 (あ、あれ…?)
 ナナはひどくがっかりして、同時に焦らされることにもなり、

 「……ひとまずお預けだな?」

 目の前で悪戯っぽく笑った薔の後ろには、気づくと一台の高級車が停まっていた。








 「あと一回りくらいしてきても良かったんだぞ?如月。」
 「すみません、思わず停めてしまいました…」
 いちおう、ふたりをお迎えに来た夕月と如月は、気を利かせてちらりとしか見てはいなかったのですが。

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