※※第202話:Make Love(&Cuteness).119
「日本のスーパーに来たのは何年ぶりだろうな。」
この日夕月は、打ち合わせの帰りにとあるスーパーマーケットに訪れていた。
無性に歩きたい気分で、打ち合わせ場所からここまではおよそ一時間をかけて歩き、景色の瞬間を時折心で切り取った。
目的があるため、如月にはこの後迎えを頼んである。
買い物に来ている奥様方は思わず、スーパーマーケットでは滅多に見かけることのないような、際立って洗練されている雰囲気の夕月に視線を奪われたりしていた。
ひたすら営業スマイルを振り撒いていた店長こと川口さんも、思わず惚れ惚れしてしまった。
さんにんぶんの夕食の食材の調達に訪れた夕月は、周りの様子など気にも留めず必要なものだけを買い物かごに入れてゆく。
そしてふと、お菓子売り場に目を留めた。
特にお菓子売り場には必要なものはないのだが、足は自然とそちらへ向いてしまった。
定番のものから新商品まで、お菓子売り場は子供が喜びそうな、もちろん大人だって喜びそうだがとにかくお菓子たちで賑わっている。
「小さい頃に俺も、こういうもんをもっとたくさん買ってやりたかったな…」
ぽつりと呟いた夕月は、またしても自嘲的に笑った。
そしてはっと我に返り、口元を片手で覆った夕月の隣、
バサッ…バサッ…
ひたすらにお菓子を買い物かごに詰め込んでゆく、背の高い女性が現れた。
かごの中はあっという間に、お菓子たちで埋めつくされていった。
お菓子の大人買いとでも呼ぶべきか、夕月は感心してしまいその様を写真に収めたくなったくらいだ。
女性はコアラのマーチを十個以上もかごに詰め込み、今度はポッキーに走る。
その威勢のいい姿にはどこかしら、小節が利いている。
買い物かごの中はお菓子でいっぱいになっているため、途中、ポッキー<大人のミルク>が一箱零れ落ちてしまった。
「あら、」
女性がそれを拾おうとすると、先に拾い上げたのは夕月で、
「どうぞ?」
笑いを堪えながら優しく床についてしまった面を手で払い、女性へと手渡した。
「まあ、どうも。」
近所のスーパーに買い物に来たナナ母は、落としてしまったお菓子を拾い上げてくれたジェントルマンには見覚えがあった。
惚れ惚れとその後ろ姿を見送りながら、ナナ母は思い出す。
「あのとき、ちらりとテレビに映ったかただわ。」
“濃厚な”が決め台詞となり始めた、あのときのことです。
「こんなところでも目の保養がねぇ…」
イケメンカフェで先日目の保養をしてきたばかりのナナ母は、やはりこれは日頃の行いの賜物だと思っている。
そして大量のお菓子が入った買い物かごを手に、レジへと向かう途中ナナ母は呟いた。
「あのかたと薔くんて……よく似てるわね。」
先日確かめたばかりだ、雰囲気からしてとてもよく似ていた。
それは、ただの偶然とは思えないほどに。
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