※※第198話:Make Love(&Pornography).116







 一度でも血を吸われてしまえば、その人間は、ヴァンパイアが自らの血を分け与えることでヴァンパイアに生まれ変わることができるのは、屡薇も知っていた。
 これらの行為は、儀式のように時間を置かずに即座に行う必要はない、時間の経過は関係なく、一度でも血を吸われた人間はそのヴァンパイアの血によっていつでもヴァンパイアに生まれ変わることができる。
 何人も無差別に、ヴァンパイアに変えることは許されていない、暗黙の了解として彼らの中には存在している。

 ヴァンパイアの血によってヴァンパイアに変えることは絶対にできない唯一の存在、それが極上の媚薬のような特殊な血液F・B・Dを生まれ持つ者、つまり上玉だ。



 古い紙のにおいがする一冊の本の数ページへと、屡薇は珍しく真剣に目を通していた。
 やがて項目の補足を見た屡薇は、目を見開いた。
 自分が最も知りたかった事実は、ここにあったのだ。






 “吸血鬼は、自らの血を分け与え吸血鬼に変えた者だけに、抹消されることができる。しかしながらこの事実は、死を望む吸血鬼が不必要に人間を吸血鬼に変えてしまう危険性をじゅうぶんに孕んでいるため、吸血鬼もしくはその血が混じった者はこの事実を記憶することができない。”





 読み終えた屡薇はすでに、今読んだ内容を忘れてしまっていた。

 「あっ、やべ、時間…」
 腕時計で現在時刻を確認し、慌てて屡薇は本をもとあった場所へと戻す、そこは覚えていた。
 「何で俺図書館なんかに来てんだろ…」
 と、目的については首を傾げ、屡薇はスタジオに戻ろうと歩きだす。

 その事実は、その事実に辿り着くまでの記憶の中で、消し去るべき記憶は全て消し去られるようになっている、但し事実無根の内容については消し去ることができない……補足はもう少し、続いていた。

 もし、初日の話を屡薇が忘れていたとすれば――それは事実となる。






 責任としてか、宿命としてか。
 ヴァンパイアは自分の血でヴァンパイアに変えた者にだけは、抹消されることができた。
 しかしながらこの事実はヴァンパイアやヴァンパイアとの繋がりが深いハーフですらも記憶することができないため、彼らは自分たちはどうやっても死なない不死身の存在だと思っている。



 …――――竜紀をヴァンパイアに変えたのが、本当にナナであり、ナナが竜紀以外に誰もヴァンパイアに変えたことがないのであれば……

 ナナをこの世から消すことのできる唯一の存在は、竜紀であって、竜紀をこの世から消すことのできる存在のひとりとして、F・B・Dを持つ薔がいた。

 そして、ナナの血を薔に分け与えれば、ふたりはいつでも終わりから始まる永遠を手に入れることができた。

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