※※第198話:Make Love(&Pornography).116









 …――――何年ぶり、否、十年以上ぶりか。



 少し切らしていた息を整え、屡薇は開いた自動ドアの先へと歩いていった。

 閉館時間になる前にと、思い立った屡薇はスタジオから一番近い図書館へと足を運んでいたのだ。
 こんなに速い足取りで歩いたのも久しぶりかもしれない、真依曰くライブ中には振り乱れてるようですが、普段はおそろしくマイペースなので。
 場所についてはスマホ(りんごのほう)で調べてやってきました。

 本日もリハーサルに朝から励んでいた屡薇はずっとどうしたらいいのかわからずにいたのだが、不意に渦巻き始めた嫌な予感にいてもたってもいられなくなり、少し長めの休憩時間を与えてもらった。
 図書館は人もまばらで、静かに佇む書架の迷路を屡薇は奥まった場所へ向かって進む。

 知りたいのは、自分に半分だけその血が混ざっている“ヴァンパイアの歴史”だ。







 初日の話を聞いてから、屡薇は暗く沈むような闇の存在を確かに感じるようになった。
 あの話が真実だとすれば、嫌な予感がするのだ。
 その嫌な予感というものはなぜか既視感を孕んでいるような気がして、拭い去れずねっとりとして膨れ上がるばかりだった。



 念入りに本の探索をしていた屡薇は、ふと、目を留めた一冊の本を書架より引き抜いた。
 そこにあったとしても誰も気づかないほどに、その本はひっそりと本の間で息を潜めていた。






 『吸血鬼は実在する』

 そりゃそうだと、屡薇は思わず返してしまいたくなるようなタイトルの本だった。
 タイトルに目を通し、筆者の名前はちょっと読みづらい漢字でもあったために首を傾げ、屡薇は表紙を開く。

 知りたい項目は、ただひとつ。

 “吸血鬼はいかにして人間を吸血鬼に変えるのか”




 嫌な予感はそこに潜んでいた。
 もし、信じたくもないが竜紀をヴァンパイアにしたのがナナであるのなら。

 その真実はとてつもなく危険な、凶器となりうる気がしていた。

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