※※第194話:Make Love(&Thickness).113
無欲の勝利、とはこのことか。
否しかし無欲とは到底言えないのか。
薔はザザえもんに対する欲求は微塵も持ち合わせていなかったが、愛するナナの喜ぶ顔が見たいという一心でくじを引いたら、一発目(くじ引きの)で一番を当てたのである。
「ほんっとうに、いつも薔のおかげです!ありがとうございます!」
一番欲しかった目覚まし時計を彼がゲットしてくれたナナは、夜空の明かりの下で満面の笑みだった。
「おまえが喜ぶなら俺はよしとするけどな…」
薔も嬉しいのだけど若干複雑な心持ちで彼女を見ていたのだが、
「一個しかなかったんですもん、すごいですよ!」
ナナはザザえもんを見ているため、ムッとなったようだ。
「おい、」
グイッ――――…
「ほぇ…っ?」
歩いていると突然、繋いだ手をかなり強引に引っ張られ、彼のほうへとナナは向き直されていた。
「ソイツばっか見てんじゃねぇよ、当ててやったのは俺だろ?それから、抱えたりすんな、ぶら下げて歩け。」
「は、はいっ!」
不機嫌に言い聞かせられ、ドキドキしてしまったナナは言われた通りにぶら下げた。
何度ぶら下げられてもザザえもんにはピノ太くんがいるからね。
(いいなぁ、おれもセフレ卒業して彼女作ろうかな…)
決して途中で置いてきたわけではない鴉姫は、一歩後ろを歩きながら心持ちを改めようとしていた。
怪しい足音が、さんにんでコンビニを出た後に響くことはなかった。
「わたくし、ぶら下げて歩くです!」
ナナは赤面して彼を見ながら、きっぱりと誓ってみせた。
「おまえはそう返すな、違和感あるから困るんだよ。」
「ぶら下げて歩けとおっしゃったのは薔ですよーっ!?」
……他意はありません、ただ、ザザえもんの目覚まし時計の入ったコンビニの袋をぶら下げて歩くのです。
ふたりぶんのスイーツやペットボトルのミネラルウォーターが入った袋は、薔が下げて歩いていた。
(おれってここにちゃんと存在してるよね?)
という点を疑問に思った鴉姫ではあるが、ふたりのおかけでストーキングの気配もひとまず消えて、安心して歩くことができていた。
ゆったりとした速度に、合わせて歩く月の周りにはうっすらとだけ雲が浮かんでいる。
見慣れたマンションの明かりが見えてくるのも、もうすぐだった。
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