※※第194話:Make Love(&Thickness).113














 「いただきます…」
 まるで食前の儀式のような言葉と共に、屡薇は真依へと噛みついた。
 真依は何も応える間もなく、心の準備をする間もなく、首もとへと浅く牙を立てられていた。

 「ひゃあっ!?」
 覚悟していた以上に痛くはなく、それに驚いた真依は思わず声を上げてしまう。
 妖しく照らし出される白い肌に、濃い色の筋が引いて落ちていった。
 服についてしまったけれど明日は仕事は休みだからと、考えてしまったことに真依は恥ずかしくなる。

 「ん…っ、やだ…っ、屡薇く…っ、」
 だから何となく、咬まれたがったのは自分ではあるが嫌がる素振りを見せてしまった。

 「あ、ごめん、痛かった?」
 痛いとは一言も言っていないけれど、牙を抜いた屡薇はゆっくりと血液の伝う肌へ舌を這わせて傷口を吸う。

 「真依さんてどこもかしこも敏感だもんね…」
 そしてくちびるを離して、笑う。




 「そんなこと…っ、ないっ…てっ、」
 本当は気持ちがよくて、何よりちゃんと憧れのシチュエーションであったため、真依の声は否応なしに甘ったるくなった。
 否定したのは、敏感についてか、痛みについてか。

 「ウソばっかり…」
 「や…っもっ、ばかあ…っ!」
 屡薇は血液を舐め取りながら、ボトムスのうえから太股に手を這わせる。
 外から射し込む明かりが届くだけで、玄関は薄暗い。
 ゆびの動きを殊更いやらしく感じる、躰は内側まで火照りだす。

 傷をつけられ血を奪われているというのに、恐怖はなく悦びしか感じていない。
 自分はこれを、心から待ちわびていたからだ、彼だけに奪われることを。
 真依の腰は砕けそうになり、愛撫はより一層上を目指す。






 「屡薇くん…っ、そこっ…やだよ…っ、」
 脚の付け根を撫でられ、感じてしまう真依はちょっとした危機感も感じ、彼の手を掴んだ。
 「真依さんさ、そういう声…卑怯じゃね?」
 改めて傷口を丁寧に舐めてから、屡薇は唇も手も離していってしまう。

 「はあ…っ?」
 薄暗がりのなかでも窺えるくらいに赤面して、真依は振り向いたが、もっと深く咬まれても良かった気がしていた。
 そして、彼の息づかいがやけに荒いこともしっかりと感じ取っていた。


 「……やばい、好きな人の血ぃ吸うのって、こんなにも興奮すんだね…知らなかった…」
 牙を眠らせるよう、口元に片手を当てた屡薇は素直に呟く。

 「ん?それだと俺、薔ちゃんのことも好きってことに…」
 「ええ!?吸ったの!?今読んでるBLと重なるからやめて!それより、やっぱり仲良しすぎるよ!」
 この呟きは、彼女の嗜好を知っているが故の悪戯だと思われる。
 今度は真依が息を荒げております。


 ただ彼女の反応が見たかっただけの屡薇は、笑いを堪えると、

 「そこはヤキモチ妬いてよ…」

 真依を抱き寄せた。

[ 449/537 ]

[前へ] [次へ]

[ページを選ぶ]

[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]


戻る