※※第193話:Make Love(in Clubroom).112
部長さんも早々に力尽きたため稽古も順調に進み、演劇部の活動は15時でお開きとなった。
「ナナ?」
手を繋いでこのまま、真っ直ぐ校門へと向かい帰宅するかと思われたのだが、薔は彼女へと微笑んで提案した。
「少し残って練習してくか?」
「あっ、はいっ!」
目的は純粋に稽古だと思ったのか、何かを期待しちゃったのか、ナナはすんなりと彼に従った。
ほへぇーとして後輩に支えてもらいながら歩いている部長さんから、ナナが率先して鍵を預かったくらいである。
個人レッスンに様々な妄想膨らむ皆さんは覗いていたい衝動に駆られたが、後がこわいので諦めてすごすごと帰宅していきました。
まだ活動をしている野球部の掛け声や、吹奏楽部の演奏が、穏やかな風に乗って空へと響いていった。
――――――…
ふたりっきりになると、部室はいつもとは雰囲気が違って見えた。
やけに広く感じられると同時に、とても限られた空間にも思えてくる。
「えっと、どこから練習を始めますか?」
台本でおさらいをしようと、パラパラとめくっていたナナは突然、
クイッ――――…
顎を持ち上げられた。
「え…っ?」
ちゅっ…とやさしく触れあったリップ音が、他に誰もいない部室へと響いた。
キスにドキッとしたナナは、思わず台本を落としてしまう。
「練習っつったのは…口実だよ、」
すぐにくちびるを放すと、薔は彼女が落とした台本を拾い上げ、傍らの机の上へと置いた。
「おまえとふたりっきりになりたかったからな…」
彼のゆびがしなやかに、頬を伝い落ちる。
懸命に隠していた熱を、なぞるように呼び覚ます。
「帰ったらいくらでも…、ふたりっきりになれますけど……」
耳まで火照ってしまったナナは、上目遣いに彼を見る。
差し込む光の角度が、また少し変わっている。
「帰るまで待てねぇから、今こうして触れてんだろ?」
薔はさらに彼女を誘惑するように、首筋までゆびを這わせてゆくと、
「もっと触れる前に、カーテン…閉めようか、」
ふっと笑って、そのゆびを放した。
「あ…っ、はい……」
カーテンを引いて閉めるという行為を、誘われたように思えたナナは彼と共に窓辺へと。
部室のカーテンをそろそろと引いてゆきながら、ナナがちらりと隣の彼を見ると、
くすっ…
と笑った薔はずっと、彼女を見ていたようだった。
恥ずかしくなってしまったナナは、目を逸らして俯く。
少し暗くなった部室の中へは、外の喧騒も届かないくらいだ。
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