※※第193話:Make Love(in Clubroom).112








 ほどよく晴れた昼下がりだった。
 雲はゆったりとした速度で、風に合わせて流れていった。


 (大野大町先生の新刊が出てるんだったぁぁ。)
 午前中に勉強や執筆に励んでいたこけしちゃんは、近所のSUTAYA(かたじけない)のBLコーナーに向かって歩いていた。
 紫外線が強い時期でもあるため、こけしちゃんはお気に入りの白い日傘を差していた。


 すると道中突然、聞いたこともない声を掛けられたのである。

 「こんにちは。」




 ナンパかなぁぁ?と思いながらこけしちゃんがニコニコと振り向くと、後ろに立っていたのはなかなかのイケメンで、

 「僕は初日っていうんだけど、良かったら僕と仲良くしない?……桜葉 悠香さん。」

 なぜか名前を知っていた初日という男は、微笑んだ。


 名前を知られていることなど物ともせず、にっこにことこけしちゃんは返しました。

 「あたしと仲良くするよりぃ、男と仲良くしたほうがいいと思いますぅぅ。」








 …――――さすがはこけし姉さん!




 「ではぁぁ。」
 おっとりと会釈をしたこけしちゃんは、何も迷うことなくボーイズラブに向かって歩き出す。

 「そんな断り方していいの?僕いちおうバンドやってるんだけど、」
 初日はここでも食い下がった。

 ボーイズラブへの道を邪魔されているこけしちゃんだが、ニコニコと立ち止まってあげると、

 「そのバンドにはぁ、ゲイはいますぅぅ?あたし彼氏以外はゲイにしか興味ないんですぅぅ。」

 日傘を傾げて男を見ながら、キュートに尋ねてもあげました。


 「いや、いません。」
 初日は正直に答えた。
 「なら興味なしぃぃ。」
 UV以上に男の誘いをきぃっぱりと跳ね返したこけしちゃんは、

 「それからぁ、名前知ってても肝心のそこ知らないなんてぇ、調査甘すぎぃぃ。」

 若干おっとりにおいて憤慨しながらも歩いて行きました。

 「次声掛けたらこの日傘でぇ、尾てい骨ぶっ叩くからぁぁ。」
 という、言葉まで残して。









 男性の、お尻の割れ目の上にある大事な尾てい骨をぶっ叩くという表現は、こけし姉さんにとってかなりの拒絶と見られる。

 「……手強いな、彼らは。」
 フッと笑った初日は、日差しとあたたかい風を受け、

 「ママ〜、あのお兄ちゃん女の子に置いてかれた〜!」
 「しぃっ…!その通りだけど見ちゃ駄目よ!?まさるくん…!」

 初日を指差すちびっこの手を母親が強く引き歩いていった(何ともベタ)。


 ……Peonysの知名度もまだまだまだまだである。

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