※※第193話:Make Love(in Clubroom).112








 本日は演劇部の活動も、午前中からばっちりございました。
 各々お弁当を持参したりして、励むは劇の稽古です(ただし一人は今のところ大笑い)。



 「“大切なのは、外見ではありません、あなたはとても優しい心の持ち主です、それだけでじゅうぶんです。あなたがどんな見た目であろうとも私はあなたを愛す、そう神様に誓いました…”」
 なかなかの迫真の棒読みではあるが、ナナは台本がなくともだいたいの台詞を言えていた。

 「“さあ、どうぞ、私の前でマスクを取ってください!”」






 「………………。」
 台本を端から手にしていない薔は愁いを含み、何かを考え込んでいる様子で台詞を返そうとはしなかった。

 (最初からマスクない状態で言われると説得力ない上に、違和感半端ないな…)
 演劇部のみんなたちや日曜日も出張ギャラリーの皆さんは、そう思えてならない。
 なんだかんだでBGMは部長さんの大笑いである。





 「薔?どうなさったんですか?」
 ナナは心配になって、思わず彼の顔を覗き込んでいた。

 はっと我に返った様子の薔は、次にちょっと照れたように片手で口元を覆うとぽつりと呟いた。

 「やめろよ…びっくりするだろ?」









 ふらぁっ…!

 「あああっ!三咲さーんっ!」

 ナナはときめきにやられノックダウンされかけた。

 そんな彼女が倒れる前に、薔がちゃんと抱いて支え、

 「“マスクを取ったらすぐに、君の麗しい唇にキスをしてしまうかもしれない…”」
 「今それ言うのやめてくださ…って、近い!おカオ!」

 ここにきて突然台詞を言われ、迫られている気もしてならないナナは真っ赤っかとなった。
 雰囲気は否応なしに、ディープとなっている。



 (ここぞとばかりにR指定だ――――――――っ!)

 赤面と震撼する周りもノリに乗って「キース!キース!」という掛け声をかけてしまいたかったが、後がこわいのでやめておいた。





 「あははっ……」

 ぱたっ…

 とうとう、和湖部長は堪らずにぶっ倒れたようだ。
 せめて誰か支えてあげてよ。


 「部長がもう力尽きた…」
 「マジでキスする5秒前効果…」
 部員たちはなんとなく感嘆の声を漏らす。
 笑いながら力尽きられるとちょっとしたホラーである。




 「……この歯の浮くような台詞、何とかならねぇのか?」
 「薔なら様になってるんで、大丈夫です!それよりこの体勢何とかなりませんか!?」
 「ならねぇな。」
 「えええ!?」


 ……劇の稽古は至極順調に進んでおります!

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