※※第191話:Make Love(&Sex aid).13
仮面は作り直しとなったがおかげで早々に部長さんが力尽きたため、稽古も順調に進み帰宅となりました。
空はまだ青く明るく、うっすらと、だんだん細くなりゆく月が残照の中に浮かんでいる。
並んで歩くナナと薔の鞄では、昨日の映画ザザえもんイベントでゲットしたお揃いのキーホルダーがおんなじ速度で揺れていた。
「もう台本がなくても、ほとんど台詞が言えるようになりました!」
達成感に満ちるナナは、嬉しそうに隣の彼を見上げ、
「偉いな?俺のナナは。」
薔は笑って彼女へ向くと、あたまをなでなでした。
右手は彼女の左手と繋いでいるため、左手でそっと。
彼の後ろをかなり大きな音でバイクが走り抜けていったが、ふたりはふたりの世界にいるため爆音も気にはならないのである。
さりげない仕草で守られているということに、ナナは気づいていない。
気づいていないから、さりげない。
ふわんと気持ちよくなって、いい匂いがして、ちょっとくすぐったくもあって、もっと撫でてほしくなったのだけど手は放されていってしまう。
「えへへ…嬉しいです……」
ナナは嬉しさと恥ずかしさに、少しはにかむと、
「えっとですね、今日覚えた台詞は……えっと……」
台詞をいくつか思い出そうとしたのだけど、ときめきにやられているせいか上手い具合に思い出せなかった。
「あれ…?忘れちゃいました……」
困ったように薔を見ると、左手を見せつけた彼は悪戯っぽく笑ってこう返した。
「撫でたと見せかけて、俺が盗んじまったかもしんねぇぞ?」
「あーっ!返してくださいーっ!」
頬を赤くして、ナナは訴える。
彼が言うならその通り、覚えた台詞たちは今は彼の手の中にあるような気がしてならない。
「ただ頭撫でてほしいだけだろ?おまえ、」
「ちがいますよ、台詞を思い出したいんですよぉ…」
術中に陥っているのか、的を射られているのか。
どちらでもあるのかもしれなくて、ナナは上目遣いに彼を見る。
もじもじしだしてしまったナナの姿に、くすっと笑った薔はふと、ひとけのないことを確認してから彼女と共に立ち止まると、
ちゅっ…
覗き込むようにしてくちびるにくちびるを寄せると、キスをしてきた。
「…――帰ったら、いっぱい撫でてやるよ…」
やさしく触れあわせたくちびるを、放してゆきながら彼は囁いて、
「はっ……はい……」
ナナは蕩けてしまいそうな、視線で頷く。
そしてまたふたりは、寄り添って歩き出す。
(あ……)
不意にひとつ台詞を思い出せたナナは、もしかしたら彼がキスでちょっとだけ返してくれたのかもしれないと、そんなことを考えてしまいゆびさきでくちびるにそうっと触れてみたのだった。
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