※※第187話:Make Love(&Ride).109








 さほど高くもない山の空き地の木陰に車を停めて、一同は降り立った。
 降り立つと感じることができたのだが、空気がとても澄んでいた。


 「登紀子叔母さんが所有している山でね、今日一日貸し切りにさせてもらったのだよ。」
 ここにきて、眼鏡をくいっとさせた醐留権は誇らしげに明かし、
 「登紀子叔母さんて…俺とどういう関係なのかよくわからない、あの……」
 羚亜は息を呑む。


 「羚亜くんの親戚なの?」
 「いや、俺一度も、会ったことすらないんだけど……」
 愛羅の問いに、羚亜自身も困惑気味で、

 「とりあえず、危険な場所を探すか。」
 「かしこまりました!」

 用具を手にした薔はナナを連れて、企画者なのにはぐれようと試みる(しかもアイロン掛け用具を手にしているのに)。
 花子と豆も、薔のあとをついてゆく。




 「こら!暮中!」
 「ついてくんな。」
 醐留権先生も薔を追いかけ、

 「あぁぁぁ……あんなに必死になってぇぇ、バックを追いかけてるぅぅぅ……」

 本日のこけしちゃんの妄想も絶好調。
 禁断な白いあの美しいお花の世界では、このままいけばふたりは確実に山の茂みで青姦である。



 「羚亜くん!エクストリームアイロニングの動画観よ!」
 「愛羅さんさすが!気が利くね!」
 携帯電話の電波には特に影響もなく、バカップルはYouTubeで動画を再生し始める。

 「ハリーさんの勇姿、しっかり撮ってあげますからね!」
 動画の撮影のコツを研究してきた葛篭は笑顔で、彼へと活を入れ、

 「実穂子サンのためにも、ワタクシがんばりマース!」

 興奮気味のハリーは陽気にウインクしようとしたのだが、結果的には両目を瞑ってしまった。

 たくさんの人でごった返すゴールデンウィークだが、特に観光客の目に触れることもなく、思う存分エクストリームアイロニングの特訓をしちゃいましょう!
















 ――――――――…

 何の鳥だかよくわからないが、囀りが聞こえてきた。
 風はそよぐ程度で、耳を澄ませば小川のせせらぎも聞こえてきそうである。


 などと言う、趣のあることはあまり言っていられなかった。



 ゴオォォォォオオオ…!

 川の激流を背にした崖の上にて、ハリーはピンク色の可愛らしいコードレスアイロンを手にしていた。
 目の前には、しっかりと大地を踏みしめたアイロン台がいずれ妻のブラウスを載せ待ち構えている。
 通常なら川の激流には臨むのだろうが、薔の指示で背にすることとなった。


 「あノ〜、マサの娘サンの旦那サン…?」
 足がすくんでしまうハリーは、青ざめ薔へと声を掛け、

 「今日はハリーさんの、お師匠さまによるエクストリームアイロニングの特訓です!」
 「あ?」

 危険にさらされているいずれ夫にはお構いなしに、ナレーションを入れながら葛篭はスマホ(ロボットのほう)で撮影を開始した。



 (強いな、葛篭先生…)
 こけしちゃんの場合はそれ相応に変換していただきたく、醐留権ご一行はいたく感心し、

 「薔……お師匠さまですって……」
 「そんな目で俺を見んな。」

 肝心のお師匠さまは、うっとりする彼女とイチャついておりました。

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