※※第187話:Make Love(&Ride).109
明け方に出発したのが功を奏し、ワゴン車は大きな渋滞に巻き込まれることもさほどなく、道中休憩を取りながらも着々と目的地へと向かっていた。
レンタカーは10人乗りのワゴン車で、席を二つ余らせカップルごとに座ることができていた。
わんこたちは空いたスペースで、眠いのだろうか寄り添ってウトウトしている。
「ゾーラ先生ぇ、富士山に朝日が昇ってきれいだねぇぇ。」
「あはは、桜葉はロマンチストだね。」
運転席の醐留権と助手席のこけしちゃんは、終始お目目ぱっちりでイチャついている。
夜に輝いた月が薄れゆくと同時に、車窓から見える景色はだんだんと明るくなってゆく。
しかも高速を降りてからは、なかなか近くに立派な富士山を拝めているようである。
「サンドイッチ作ってきたんですけど、食べます?」
「実穂子サン、さすがデス…!」
葛篭先生は玉子やツナや野菜がたっぷりのサンドイッチが詰まったバスケットとお茶が入った水筒を取り出し、各々朝食に取りかかったり。
「羚亜くん、見て見て…!なんかすごく可愛い…!」
「ほんとだ、ふたりとも寝ちゃってるね…!」
サンドイッチを美味しく頬張りながら、愛羅と羚亜は一番後ろの座席を微笑ましく観察していた。
並んで座っているナナと薔は、手を繋いで肩を寄せ、静かに眠っていたのだ。
「ゾーラ先生ぇ、後で彼氏の寝込み襲っとくぅぅ?」
「桜葉!?」
先生いま運転中だから。
それぞれにちょっとしたデート感覚で、ワゴン車のなかには愛が充満していた。
――――――――…
目が覚めてからサンドイッチを美味しく戴いたナナは、今いる場所を持参した愛用の辞書で引いてみた。
やまなし【山梨】
中部地方南東部、内陸の県。甲斐国を管轄。県庁所在地は甲府市。面積4465平方キロメートル。人口88万5千。全13市。
山梨県中北部の市。笛吹川上流域にあり、ブドウ栽培が盛ん。人口3万9千。
(ブドウ!?)
ナナがまず反応したのは、そこであった。
紫でも緑でも葡萄は大好きである。
「山梨も美味しそうです…」
涎を垂らさんばかりの勢いで、5月の初めに新鮮な葡萄へと思いを馳せ呟いたナナを見ながら、美味しそうだとおそらく薔は思っている。
「ちなみにぃ、甲州弁でぇ、“おまんこっちんこうし”ぃっていう素晴らしいのがぁぁ…」
「“あなたこっちに来て”という意味だよね!?桜葉!?」
特に他意はない方言をニコニコとこけしちゃんが明かし、
「?おまん」
「おまえは言うな。」
キョトンとして復唱しようとしたナナは隣の彼氏の手で口を塞がれた。
くどいようですが、“あなたこっちに来て”という意味でございますので。
ゾーラ先生は運転しながら刺激されてしまったが、いよいよ、目的地へと到着した模様です!
[ 344/537 ][前へ] [次へ]
[ページを選ぶ]
[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]
戻る