※※第186話:Make Love(&Spume).108








 「えええっ!?」

 妻と観光中のアレックスは、驚きの声を上げた。
 どうしてそうなったのか、本日のアレックスの格好は甚平である。
 顔つきはごく平凡であるため全体的な印象はもはや甚平となっている。


 「あの超美人は上玉だったのか!」
 箸を休めたアレックスは、納得の声を上げた。
 「もう二度と迷惑掛けるなでごわすよ、人間に勝手なことをするヴァンパイアはほんとあたい嫌いやねん。」
 きちっとした黒のスーツ姿のルシアンダは、ラーメンをすする。
 日本語は別として、ルシアンダさんはなかなか人間への対応はしっかりしたヴァンパイアのようだ。

 ちなみにふたりが入っているのは、“失楽苑”という何だかごめんなラーメン屋さんである。


 「そうか、だから僕はひよこ豆だと気づくことができたんだ!」
 うんうんと頷くアレックスは、自分の股間を見下ろし、

 (ひよこ豆…?)

 ルシアンダはキョトン。




 「できれば能力で落としたかったけど、それならそれで、」
 そして、今にも涎を垂らさんばかりにしたアレックスは、ひよこ豆を疼かせてしまった。

 「すごく美味しそう……」

 と。




 「店の外出ろや、ワレ……ケツの穴から奥歯突っ込んで指がたがた言わせたる……」
 「ごめんなさい!冗談です!」
 とたんに不穏な空気だが、奥歯と指が見事に入れ替わっております。
 さすがに奥歯では難易度が高すぎるかと思われるが、案外このふたりの関係は修復できるかもしれません。

 このまま何もなく、帰国してくれることを願おう。

















 ――――――――…

 (きっ、緊張する…!)

 アイロン台の前に正座をして、ナナの鼓動は速まっていた。
 わんこたちはナナを見守り、アイロンはあたためている最中だ。
 台の上に置かれているのは、旦那(で今夜はいってみよう)のシャツだった。

 ハリーもいつになく真剣な表情である。




 (でもこちら、薔のシャツだからしっかり掛けないと……)
 いったん、うっとりと旦那のシャツを手に取って眺めたナナさんは、匂いをかぐため顔をうずめてハスハスしてみた。

 (うはぁ――――――…幸せすぎる……)






 ハリーは真剣に、メモを取っている。
 よって、匂いをかぐ動作もアイロン掛けの工程にはばっちり含まれていた。

 薔は再び夕食の支度に取りかかりながら笑いを堪えている。





 肝心のアイロン掛けについては、見よう見まねでやるしかなく、

 ゴクリ…

 と息を呑むと、ナナはアイロンへと手を掛けた。
 ハリーも息を呑む。


 そのとき、

 「なぁ、ナナ、」

 キッチンより、薔が彼女へと少し甘えたような声を掛けてきたのであった。

 「指切っちまった。」

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