※※第183話:Make Love(&Vehemence).106
「お、お嬢様…ですか?」
ドキッとしてしまった彼女へと、ゆっくりと薔は近づいてくる。
えーと薔はご主人様なのにわたしがお嬢様ということはどうすればいいんだ?と頭の中がぐるぐるしてしまっているナナの隣、
「失礼いたします…」
ベッドは僅かに軋む。
隣に座って、きちんと添えられていた白手袋を嵌めた手を、背中へと伸ばすと、
「それでは、始めましょうか…」
ゆっくり、丁寧にファスナーを上げながら、薔は彼女を誘うように笑って耳打ちをしてきた。
ドレスを纏ったナナと燕尾服を着た薔の関係は、珍しい形で形勢逆転か、
「えええっと……」
あれこれ悩んでみたナナは、ぱっと閃き口にした。
「写真を撮らせてくださ…じゃなくて、すみません…、写真を撮らせなさい……」
……命令する前に謝罪してどうするの。
やさしく微笑んで、薔は返した。
「かしこまりました。」
(よくよく考えたら、お嬢様って執事の写真撮ったりするのかな?)
とか考えながらも、ナナはこの機会にと、使い方を覚えたデジカメで彼を激写しつづけていた。
(でもこれ、すばらしいなぁあ……)
下手をすれば涎を垂らす勢いで。
「これちょっと、脱いでくださ…じゃなくて、えっと、ぬっ…脱いでほしいんですけど……」
ジャケットをちょっと引っ張って、言い替えたナナだがどちらにせよ敬語である。
「お嬢様、私に敬語をお使いになる必要はございませんよ。」
薔は言われた通りにジャケットを脱ぐ。
(ぎゃわぁぁぁぁぁあああっ!?)
自分に対する一人称「私」プラス敬語に、真っ赤っかのナナには地球がひっくり返ったかのような感覚が押し寄せる。
しかしながらこの状態は、いかんせんくすぐったすぎた。
「ほおお、こうなってるんですかぁ!」
慌てたナナは、ジャケットをしばし眺めてから、
(うはぁ――――――…かっこいい…)
ベストを着た彼の姿も、激写し始める。
薔はと言うと、撮影に夢中になっている彼女のお嬢様姿に、だいぶ煽られっぱなしだった。
かがめばニーソを履いた脚が、ちょっといやらしく太股を覗かせたりしているのでね。
当のナナは、こんなこと滅多にできませんので彼の撮影をつづける気満々である。
ところが、
「おい、」
ファインダー越しに、とうとう薔はしびれを切らした様子だ。
「いつまで撮ってんだよ、」
ぱしっ…
「え…っ?」
気づいた頃にはデジカメを奪い取られ、ベッドへ押し倒されたナナは、
くちびるを奪われていた。
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