※※第183話:Make Love(&Vehemence).106








 「HAAA〜、とうとうワタクシにも本格的な、マリッジブルーがやってまいりマシタ〜…」
 ナナ宅のリビングにてうっとりとため息をついたハリーは、ウィーキャン(何ともごめん)のテキストを右手、ビールを左手にしていた。

 「マリッジブルー…?」
 怪訝そうな表情となったナナ父は、ハリーとテーブルを挟んでビール片手に柿の種・梅しそ味を頬張っている。

 「HAAAAA〜……」
 「ハリー、ビールが不味くなるからちょっとため息控えてくれない?」
 晩酌を楽しみながら、おっさんがたは非常に盛り上がっております。



 「はい、冷やし中華できたわよ?」
 そこへナナ母が、三人分の冷やし中華とからしのチューブをでっかい盆に載せ、運んできた。
 やはり今夜のメニューも冷やし中華のようです。

 「ハニー!待ってました!」
 「ハニーサンの作る冷やしお中華は最高デース!」
 おっさんどものテンションは上がる。

 テーブルにはまず和がらしが置かれ、各々に冷やし中華が置かれてゆくなか、ハリーはさっそくからしを一周冷やし中華のうえへと練り回した。





 そのとき、ふと、

 「そういえば今日、何百年かぶりにアレックスに会ったよ?」

 ナナ父がナナ母へと報告したのだ。


 アレックスってだれ?という話なのだが、ナナ母の雰囲気はなぜかとたんに険しくなった。

 「僕たちの“命の恩人”ではあるけど、あんまり会いたい人物ではないから逃げるようにして帰ってきちゃったよ。」
 報告を続けたナナ父は、ハリーから渡されたからしを皿の隅にちょんと絞る。


 「OH〜、からしとはツンデレデスネ〜!マサ〜、アレックスとは誰デスカ〜?」
 涙を流しながら冷やし中華を食べるハリーは、鼻声で尋ねてみる。
 ちなみにからしにはアリルイソチオシアネート効果である最高峰のツーンはございますが、ツンツンもデレデレもございません。


 「私たち一家を、救ってくれた男よ?」
 尋ねられたのはナナ父だが、険しい雰囲気でも落ち着いた声で返したのはナナ母だった。

 おっさんがたは、かたほうは泣きながら、息を呑む。



 「一難去ってまた一難かしら?」
 残りのからしを全部、冷やし中華のうえへと練り回してから、

 「あの男はたいてい、ろくでもないことをしでかすのよねぇ…」
 悩ましげだが、辛味については涼しげにナナ母は冷やし中華を食べ始めた。



 「そうなんだよね…」
 ナナ父もなんだか、神妙な面持ち。
 いつもはうるさいハリーも、黙って涙を流しながら冷やし中華を食べている。






 …――――“命の恩人”ならもう少し歓迎されてもいいような気がするが(それよりかなりの重要人物では……)、

 ここまで鬱陶しがられる、アレックスっていったいどんなヴァンパイアなんだ?

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