※※第181話:Make Love(in Landing).104








 夕刻と言えどもまだ明るく、青に仄かな赤を混ぜて暮れゆく空にはうっすらと、白く透き通る小潮の月が浮かんでいる。


 劇の稽古を終えての帰り道、

 「………………。」
 ナナは彼と手を繋いで歩きながら、引く頻度が増えてきた愛用の辞書を真剣に眺めていた。
 片手なため探すのに四苦八苦はいたしました。



 いけ‐めん【いけ面】
 (「いけている」の略「いけ」と顔を表す「面」とをあわせた俗語か。多く片仮名で書く)若い男性の顔かたちがすぐれていること。また、そのような男性。



 ……バッチリ掲載されておりました。




 「わたしの思っていたので合っていると思うんですけど…」
 ナナは眉間にしわを寄せる勢いで、辞書とにらめっこをしていると、

 「それより、ナナ…」

 不意に耳もと、やけに低い声で囁かれたのだ。

 「おまえの後ろに何かいるぞ…」








 「ギャア――――――――ッ!」
 恐怖におののいたナナは、彼にむぎゅうっと抱きついていた。
 その隙に薔は辞書を奪い取る。
 周りに人気がないことを、ちゃんと確認してからやられました。


 「あれ?でも薔がいるので大丈夫だと思うんですけど……それに、まだ明るいですし…」
 と、気づいたナナがそろりそろりと振り向いたところ……、

 後ろには、無色透明の空気さんがいらっしゃった。






 「だっ…、騙したんですね!?」
 彼に抱きついたまま、真っ赤になったナナは声を張り上げた。

 「うるせぇな、おまえが俺を構わねぇのがいけねーんだろ?」
 ご機嫌ななめな薔はぽすりと辞書を彼女の鞄へ戻す。


 ……きゅうんっ…

 ナナは瞬時にときめいてから、

 「って、何をやってらっしゃるんですかーっ!?」
 「おまえがな。」

 現状に気づき、さらに真っ赤となった。
 けれど未だにむぎゅうっと抱きついてはいた。






 (うはぁ――――…いい匂い……)
 嗅覚を研ぎ澄ませる彼女の胸は、

 むにっ…むにっ…

 衣服越しであろうともやわらかく、歩くたびに彼へと当たっております。

 無自覚の誘惑に、薔は否応なしに、ムラッ。




 そうとも知らずナナは、しばらく彼にくっついたまま歩いていたのだが、通行人を発見し慌てて元の距離へと戻ったのでした。

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