※※第174話:Shout of Love.1








 「ぐすっ…」
 床へと伏して、ナナは泣いていた。
 泣いている場合ではないとわかっていても、薔に会いたくて泣けてきて止められない。

 縄は相も変わらず、体を圧迫してくる。
 静かなここは、気が滅入ってしまう。








 と、思っていたのだが、

 「ナナっ、」

 突然の出来事だった。
 会いたいと心が張り裂けるくらいに想いつづけた、薔の声が響いたのだ。


 「え――――――…?」
 ナナは泣きはらした顔を、ちからの限りで上へと向ける。



 「もう大丈夫だ、」
 薔はやさしく言い聞かせながら、檻の錠を開けると、

 「遅くなって、悪かったな…」

 手にしていたナイフで、丁寧に素早く縄を切ったのでした。










 ナナを取り巻いていた気味の悪い息苦しさは晴れた。
 けれど、雨のなか傘も差さずにここまで来てくれたのであろう彼の姿に、いてもたってもいられない激情は押し寄せた。


 「行くぞ、」
 薔は彼女の手を、取ろうとしたのだけど、

 「…どうして、助けに来たんですか?」

 その手を思わず振り払い、ナナは言ってしまった。

 「離れろっておっしゃったのは、薔ですよ?どうしてこういう時には助けに来てくださるんですか?」









 薔はただ、黙っていた。

 「危ないじゃないですか、しかも、こんなに雨に濡れて…、またお熱でも出してしまったらどうするんですか?」
 ほんとうは、ありがとうございますと、会いたかったですと素直に伝えて、彼に手を取られそのまま、何処へでも連れ去られたいのに。
 自分でも、歯止めが利かない。

 「放っておけばいいじゃないですか、わたしのことなんか…、なのにどうして助けに来たんですか!?」



 とうとうナナは、堪えきれず声を張り上げてしまった。
 涙は次々と頬を伝っていった。

















 「……そんなん、好きだからに決まってんだろ…」
 薔は静かに言葉にした。

 あまりの静かさに涙は止み、それでも確かめたくてナナは聞き返したくなったくらいだ。



 しかし、彼はついに、せきを切ったかのように彼女への想いを溢れさした。


 「おまえを…愛してるからに決まってんだろ!」

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