※※第174話:Shout of Love.1








 「確か、オレが初めて狩りに出た日も、雨が降ってたんだよな…」
 物思いにふけるように、勇真は雨が流れていく窓を見つめていた。

 「あの女(ひと)、元気にしてっかなぁ…」









 バンッ――――――…

 ひとりのヴァンパイアに思いを馳せていると、突然、ものすごい勢いでドアが開けられた。

 はっ!とした勇真は、すぐさま音のしたほうを見やる。



 「ナナはどこだ?」
 雨を滴らせ、ナイフを手にしている薔は問いかけた。







 「お前ら、別れたって…」
 勇真は息を呑む。
 視線の鋭さに、たじろいだことを悟られないよう、何とか踏ん張りながら。

 「別れたんじゃねぇよ、あいつは自由になったんだ、」
 薔の声ははっきりと、部屋へと響いていた、雨の音もかき消すかのように。

 「あいつの自由を奪っていいのは、この世でただ一人、俺だけなんだよ。」










 「はぁ!?よく考えろよ!あの女はヴァンパイアだぞ!?」
 必死で言い聞かせる勇真は、声を張り上げた。

 「人間の血を吸って生き長らえる、野蛮な生き物だ!目を覚ませ!」

 と。





 「なら、逆に聞いてやる、」
 落ち着きはらった様子で、薔は返した。

 「生きるために、命を食らった事があんたにはねぇのか?」





 その言葉は完全に、雨の響きを打ち消した。







 「気づけよ、あんたの言葉は取り込んできた命たちへの冒涜にもなってんだぞ?」
 薔は堂々と、勇真へ向かって歩み寄る。
 勇真には、返す言葉が見つからない。




 「あいつはいつも俺の血を吸う時、泣いてたんだ…」
 とうとう、その胸ぐらを掴んでしまうと、

 「お前らは自分の事を棚に上げて、ただてめえに都合のいい正義を翳して見せてるだけだろ。」
 薔は目の前で、銀色に光るナイフを振り上げた。

 「ナナはどこだ?早く言え。でなきゃ俺がお前らをこのナイフで裁いてやる…」













 それは有無を言わせぬ、威圧だった。
 ナイフではない、何より視線が研ぎ澄まされていたのだ。



 「こ…、この扉の向こうの、廊下の突き当たりに、地下へ続く階段がある…、その…地下室の、檻の中に…、彼女はいる…」
 冷や汗混じりに、勇真がやっとのことで説明をし、檻の鍵を手渡すと、

 「酷でぇ事すんだな…、どっちが野蛮だ?」

 そう言い残し、薔はすぐにそちらへと全力で駆けていった。






 とたんに響き始めた、雨の音。

 薔が駆けて行った後、

 カチャ――…

 勇真は汗の混じった震える手で、おもむろに拳銃を取り出した。
 黒く艶のあるそれは、本物の重みを持って両手へとのしかかった。

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