※※第174話:Shout of Love.1








 降りだした雨はたちまち量を増し、夜の街をさらに暗く濡らしていった。
 アスファルトに作られた小さな洪水が、流してゆくみたいに仄かにネオンを映している。






 傘も差さずにひとり、雨に濡れながら薔はひとけのない道をわざと選び歩いていた。
 すべては、あの男――竜紀をおびき寄せるためだ。

 制服のポケットの中には、鞘に入ったナイフを忍ばせていた。






 雨は強さを増してゆく。
 彼は歩きながらずっと、ナナのことばかりを考えていた。

 竜紀はいっこうに、姿を現さない。


 すれ違う人もなく、ずぶ濡れになり歩き続けていた薔の後ろ、

 「ワンッ!」

 突然、花子の声は響いた。














 ひどく驚いた様子で、薔は振り向く。

 同じくずぶ濡れの花子は、すぐ後ろでお座りをしていた。
 そして、咥えている一本の傘を、ご主人様へと差し出していたのである。
 その瞳は、必死で何かを訴えているようであった。



 嫌な予感がした薔が、その傘を受け取ると、

 ダッ――――――…!

 花子はまるでご主人様を案内するかのごとく、雨が降りしきる道路を駆け出していったのだ。




 「……ナナ…?」
 傘を握りしめ、薔は花子のすぐ後を追うように駆け出した。
















 ――――――――…

 「だめだ、何度かけても連絡がつかない。」
 醐留権はため息をついた。

 「あかりちゃぁんがぁ、教えてくれた住所に向かってみるぅぅ?」
 じつは、こけしちゃんの携帯電話へあかりから先ほど電話がかかってきたのである。
 あかりは兄に憤りながらもなかなか詳しくいきさつを説明してくれた。




 慌てたこけしちゃんは皆に報告をし、醐留権は薔に連絡を取ろうとしているのだけどいっこうに連絡はつかないでいる。
 この場合はこけしちゃんも、萌えている場合ではありません。





 「そうだな、私たちだけでも向かってみるか。」
 決心した醐留権は、車のキーを取り出し、

 「でも、薔くんどうしちゃったんだろ…」

 羚亜はふと、ひどく心配そうに口にした。

 「三咲さんさ、今日も薔くんのところに帰ったんだよね…?」

 と。







 その呟きにより、醐留権は閃いたようだ。

 「……暮中はもしかすると、ひとりで竜紀と対峙しようとしていたのではないだろうか?」



 こけしちゃんもまだまだ、萌えている場合ではございませんでして、

 「だとすると、彼はすでに三咲のもとへと向かっているのかもしれない…」

 緊迫した雰囲気で、一同はナナ宅を後にした。

 「お邪魔しました(※こけしちゃんの場合のみそれ相応に変換を)!」








 もちろん、お札もきちんと濡れないようにと鞄に入れて携えてゆき、

 「OHH〜、ファイト一発デース!」

 ハリーはホロリとしながら見送っている。






 「私のこの嫌な予感も、きっと吹き飛ばしてくれるわね。」
 「そうだね!ハニー!」

 手を取り合い、ナナ父とナナ母も見送っておりました。

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