※※第174話:Shout of Love.1
「ん……」
ナナはおもむろに、目を覚ました。
いつの間に意識を失ったのだろうか、とにかく体が鉛のように重い。
締め上げている縄が、未だ圧迫するかのように全身のちからを気味悪く奪ってゆく。
何とか、瞳を開けると、視界にはまず明かりと鉄格子が映り込んだ。
「え……?」
その向こうにはちゃんと、白い壁が広がっている。
しかし、ナナが身動きのとれる範囲は、ひどく限られたものでしかなかった。
もっとも、その身動きですら思うようにとれはしないのだが。
縛られたナナは、檻の中に捕らわれていた。
あまりにも殺風景で真っ白な部屋の隅に、檻は置かれていた。
(はやく、逃げなきゃ…)
縄を解こうともがくが、ままならない。
指輪を外しているはずなのに、能力を発揮できないどころかほとんど体を動かせないでいる。
そのとき、
「そいつはヴァンパイアの力を封じ込める縄だ、お前らが持ってる指輪より遥かに強力なんだよ。いくらあがいても無駄だ、諦めるんだな。」
聞き覚えのある男の声が響いた。
「ヴァンパイアなんて、人間にとっては有害でしかねーからな、自業自得の末路だろ?売り飛ばされたアンタは、気が狂うまで人間の奴隷にされる運命なんだよ。」
男は檻を覗き込む。
眼鏡を外しているが、ナナにはそれが自分のクラスの副担任だとすぐにわかった。
「明日の朝、迎えがくる。そしたら地獄の日々の始まりだ。」
笑った勇真は、部屋を出て行った。
地獄がなんたるかを、あんな男に教えられて堪るか。
沸き上がる怒りと、何としてでも前進したい気持ちで、ナナの体は震えた。
自力で逃げなければならない。
無事に逃げ出して、薔に会いに行かなければ――――…
「う…っ、う……」
地獄の日々の話を聞かされたときは悲しくも恐ろしくも何ともなかったが、彼のことを想うだけで会いたくて仕方がなくて、
ナナは泣いていた。
部屋の中は、とても静かだ。
窓も見当たらない、おそらくここは地下室なのだろう。
雨はもう降り始めてしまったのだろうか。
傘を届けなければならなかったのに……
ナナは鉄の地面に顔をうずめ、さめざめと泣いた。
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