※※第173話:Stray(&Masturbation).1
ガチャ――――…
涙は拭ったものの泣きはらした顔はどうにもならず、おもむろにナナがドアを開けると…、
「あ、あの…、突然…ごめんなさい……」
廊下には、豆を抱っこした真依が立っていた。
「あ、フウちゃんとまめちゃんでしたか!」
ナナは努めて明るく笑い、ふたりを部屋へと招き入れる。
ノックの仕方で違うとはわかってはいたけれど、それでももしかしたら薔かもしれないという期待だけは拭い去れなかった自分がいた。
「えっと、そうだ、お茶でも…」
かろうじて客人(かたほうはわんこだけど)に気を利かせ、ナナがいったん部屋を出て行こうとすると、
「そういうのはいいから、お願いだから、よく聞いて?」
真依は真剣な眼差しを向け、話し始めたのである。
わかっていることではなく、彼女に伝えるべき知っていることを、すべて。
息を呑んだナナは、真依の眼差しによってこのときようやく、点と点を線にできた。
…――ヴァンパイアが噛んだ傷であれば、特有の早期平癒が伴うはずだ。
だが、月曜についた彼の傷は、かなりひどい出血を続けていた。
あれは、ヴァンパイア特有の治癒能力を持たない、ハーフ、
つまり、屡薇がつけた傷だったのだ。
真依の言葉に、ナナは一所懸命に心を傾けた。
月曜日に真依を襲ったのは、紛れもない、竜紀だ。
そして、その前にはおそらく、屡薇も被害者となったのだろう。
屡薇が竜紀に襲われたことを知った薔は、ひどく責任を感じ、自分の血を何の躊躇いもなく分け与えたに違いない。
真依の話を聴きながら、ナナはいくつかの線を引いていった。
わからないのは、何故急に、竜紀がそんな嫉妬の暴走のようなことをし始めたのか。
その理由をきっと、
薔は、知っている。
グッ――――…
ナナは拳を固めた。
今すぐにでも竜紀をぶん殴ってしまいたい。
込み上げてくる瞋恚が、自分を奮い立たせるのがひしとわかった。
「ありがとう!フウちゃん!」
精悍と放たれた言葉に、真依も豆もびくっとなった。
「わたしやっぱり帰る!あのひとが何と言おうとも!」
そんでもってナナさんは、彼がくれた合鍵も携帯電話も入った鞄を強く掴むと、部屋を飛び出していきました。
ポカーン…
と、見送っていた真依と豆だが、
「良かったら、お菓子とお茶でもどうぞ?」
「えっ?は、はい…」
ナナ宅のリビングにて、しばしの寛ぎタイムと相成りました。
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