※※第173話:Stray(&Masturbation).1
「ぶ、部活中なんだね、きっと…、あたしうっかりしてたよ。」
よく所持していたものだが、ディアストーカー(帽子の一種)を被った真依は豆を抱っこし、とある高校の前に佇む電柱の影から校門を見張っていた。
無論、この高校であることは制服を見ればすぐにわかったのである。
豆は強ち助手役に悪い気はしていないのか、楽しそうに尻尾を振っている。
やがて、
「…………あっ…」
真依は思わず、声を上げてしまった。
校門から飛び出したナナは、周りには目もくれずにものすごい勢いで走り去っていった。
「あの子…、泣いてなかった?」
すぐに声は掛けられず、真依はナナの後を追って走りだした。
「クゥン……」
豆が何だか、悲しげな声を上げた。
ナナはやはり、泣いていたのだ。
――――――――…
「ナナ、おかえりなさい。」
玄関先にて、帰宅した娘に母はそう言っただけだった。
珍しく、ナナ母はお菓子を食べてはいなかったが。
「たっ、ただいまっ…」
消え入りそうに、涙声で返し、ナナは階段を駆け上がってゆく。
「OH MY GOD!マサの娘サンガ、帰宅してしまいマシターッ!」
とたんにリビングで号泣しだす、ハリー。
「ハリーさん、ちょっと静かにしててくださるかしら?」
「Yes!」
しかし、ぴしゃりとなだめられたハリーはとたんに泣き止み、
「お客さんがいらしてるのよ。」
再び玄関へと向かったナナ母は、ドアを開けると微笑んで、言ったのでした。
「待っていたわよ、さあどうぞ、上がってちょうだいな。」
「えっ?あっ、はい…」
何故気づかれていたのか、驚いた真依だったが、急いで帽子を取ると招かれるままにナナ宅へと足を踏み入れた。
自分のベッドに伏して、ナナは泣いていた。
嗚呼、やっぱり、自分のベッドはとても懐かしいのだけど、彼と過ごしたあのベッドが恋しくて堪らない。
窒息するほどに顔をうずめてしまいたい匂いを、必死で手繰り寄せるみたいに思い出す。
そこへ、
コンコン…
部屋のドアをノックする音が、控えめに響いたのだった。
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