※※第173話:Stray(&Masturbation).1








 「みっ、三咲さん、来ないね……」

 それは放課後のこと。
 演劇部の皆さんも、走り抜けた戦慄にぶるぶると震えていた。
 和湖部長の元気のなくしようも相当なもので、部長さんは打ちひしがれ床に倒れ込んでしまっている。





 皆してかれこれ30分は待っているがナナの来る気配はなく、薔は溜め息をつくと、

 「全部俺のせいだ…、あいつはもう来ねぇよ。」

 部長はとてもじゃないが話せる状態ではないため、副部長の箕島くんへと声を掛けたのだった。

 「代役、立てられるか?」

















 「や…、やっぱり、演劇部の練習には…出たほうがいいのかな……?」
 放課後になってからずっと渋っていたナナだったが、何とか思い立ち演劇部の部室へと向かって歩いていた。

 どんな顔をして参加したらいいのかわからない、否それより今彼に会えばたくさんの想いが溢れて劇の稽古どころではなくなってしまう。


 それでも、重い足取りで部室に辿り着くと、

 ちらり…

 まず様子を窺うべく、ナナは中を覗き込んでみた。






 すると…、

 自分の役はすでに、三年の女子生徒が代わりに演じているようだった。
 だいぶ、赤面し慌てふためきながら稽古をしているようですが。




 息が止まりそうだった。

 「…………っ!」
 ナナはいてもたってもいられずに、一目散に昇降口へと向かって走りだした。













 その様を、興味津々で眺めていた人物がひとり。
 男はだんだんと板についてきた伊達眼鏡をゆびでくいっとさせ、笑いながら口にした。

 「へえ、あいつらやっぱ別れたんだ。」

 と。




 「こいつは好都合だ、」

 そのまま勇真は、職員室へと向かい歩きだす。

 「気が変わる前に早ぇとこ狩っちまうか、今度の依頼人は“女のヴァンパイアをご所望だからな”。」





 …――いつの間にか空には、多くの曇がざわめきのように流れ始めていた。

[ 143/537 ]

[前へ] [次へ]

[ページを選ぶ]

[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]


戻る