※※第173話:Stray(&Masturbation).1








 「…――そうだったんだぁぁ、ナナちゃぁん、辛いのにぃ、話してくれてありがとうぅ。」
 教室にて、こけしちゃんは親友のあたまをなだめるように撫でていた。
 涙ながらに話したナナは、うぐうぐと肩をふるわしている。


 そのとき、

 「ナナちゃぁんの推測はぁ、正しいと思うぅ。」
 「え…?」

 こけしちゃんは悲しげに、明かしてきたのである。

 「じつはぁ、言わずにいてごめんねぇ?なんだけどぉ、あたしとゾーラ先生ぇもぉぉ、春休みに竜紀ぃってやつを見たんだぁぁ。」

 と。






 ナナの背筋は、ぞわぞわと震えた。
 恐怖によってではない、これは、怒りによって沸き上がった震えだ。
 “あの男”はどこまで影を、伸ばせば気が済むのだろうか。
 いずれはすべてその影で、覆い尽くしてしまう気でいるのだろうか。
 そんなことを、させてなるものか。




 「ゾーラ先生ぇが話したからぁ、薔くぅんはそれを知っているのぉぉ。」
 こけしちゃんはつづける。

 そのとき、レジャーランドで竜紀を見たことを、薔にはまだ話していなかったということにナナは気づいた。
 彼を決して、傷つけたくはなかった。
 …――でも、あのとき、正直に話していれば、事態は少しでも違っていた?

 だって、今ふたりはこんなにも傷ついている。




 思いを巡らせ、考え込んでいるナナの手をそっと取ると、

 「ナナちゃぁん、」

 こけしちゃんはやさしいけれど強い眼差しで、言い聞かせた。

 「薔くぅんはねぇ、ぜぇぇったい、ナナちゃぁんと離れる気はないと思うよぉぉ?」

 と。




 「こけしちゃん…!」
 ナナも熱く、こけしちゃんの手を握り返す。

 「いきなりだもんねぇ、何か理由があるんじゃないかなぁぁ?」
 こけしちゃんも必死に考えを、巡らせているようだ。




 そう、思い当たる節はある。
 月曜の夜だ。

 あの夜、ナナが目覚めてみると薔は何者かに腕を噛まれ、かなりの血を流していた。
 あれから彼は思い詰めるようになったのだ。


 そして、真依(ナナは心の中でもフウちゃんと呼んでます)に会ったあとの、あの雪崩のような止め処ない感情の押し寄せ――――――…


 繋ぎ合わせることは、きっと、できるはずだ。









 この日の学校はいつものような活気には満ちていなかった。

 ナナはこけしちゃんと共に考えを巡らす。
 何かが、今にも繋がりそうだった。

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