※※第172話:Make Love(but…Stray).99








 花子が恭しく、見送っている。
 ナナと薔は寝室へと向かって歩きだす。

 とてもドキドキして、甘い時間のはずなのに、

 ナナは胸騒ぎを感じずにはいられなかった。









 バタン――――――…

 ふたりして、寝室へと足を踏み入れると、

 「おいで…」

 薄闇の中、甘く囁いた薔はベッドへと彼女を誘う。

 大人しくついてゆくことしか、ナナにはできなくて。










 ギシッ――――…

 やがて、ベッドのうえへ辿り着くと、ベッドサイドの薄明かりが灯された。


 「あの……」
 ようやっと、ナナは口を開く。
 恍惚な雰囲気には、危うさが含まれている。

 そのとき、共にベッドへと乗った薔は、彼女の目の前で、

 「ナナ…」

 鞘に収まった果物ナイフを取り出した。

 「俺の血…全部おまえにやるよ……」










 ナナは息を呑む。

 楽しかった時間が鮮やかさを残して遠ざかる。

 引き抜かれたナイフが、妖しく光った。
 落ちた鞘は床へと姿を潜める。

 その光景は、えもいわれぬ既視感を与えながらも狂気を増していて、

 鋭いナイフは薔の首元へ、突き立てられようとした。








 「駄目ですよ!!!!」

 ナナは力の限りに、彼の手からそのナイフを振り落とさせた。
 床へと転がったナイフは、控えめな輝きを見せてから動かなくなる。

 「そんなこと、言わないでください!!」
 ナナは泣き出す。

 しかし慌てた弾みで、切れた薔のゆびさきから赤く血液は滴り落ちた。









 「あっ!すみません!」
 すぐに泣くことなどそっちのけになって、ナナは血が流れゆく彼の手を取ろうとした。


 すると、

 「……おまえだって、薄々わかってんだろ?」

 薔の言葉は、静かながらもはっきりと響いたのだった。










 「え――――――――……?」

 ドキリとして、顔を上げたナナのくちびるへと、

 「俺はいずれ、おまえの人生を駄目にする……」

 ツッ――…

 薔はゆびさきで、血液のルージュ引いてゆく。






 そして、

 「そうなる前に…おまえは俺から離れたほうがいい、」

 ドサッ――――…

 茫然とするナナの躰を、彼はベッドへと押し倒した。


 「これが最後の夜だ……」

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