※※第170話:Make Love(&Healing).97






 その言葉で、屡薇のなかに芽生えていたそれは確信に変わった。

 振り返り、いつにもなく儚げな薔の背中を見つめると、

 「できねぇよ、だって俺たち友達じゃん?」

 笑って言い残し窓を開け、豆をしばし構ってから屡薇は隣の部屋へと戻っていったのだった。
 豆はと言えば、元気になったご主人様に大喜びしながらもキョトンだったが。








 「クゥン…」
 今度は花子の悲しげな声が、リビングへと響く。
 屡薇を見送った豆が、花子の脚元へすり寄る。









 薔はただ黙って片方の膝を抱えて座り、ベランダにて少し強さを増した夜風に吹かれていた。
 血液は未だ彼の腕を赤く染めている。

 やがて、

 「はぁ――――――…」

 深く息を吐いた薔は、ゆっくりとリビングへ戻り、どこかしら危なげな様子でソファへ向かって歩いてゆくと、

 ドサッ――――…

 力無く、横たわった。










 ペロペロ…

 花子がそうっと、ご主人さまの頬を舐める。
 豆は今日は、大人しくふたりを見守っている。

 「ありがと、花子…」
 薔はやさしく微笑み、花子のあたまを撫でていた。














 ――――――――…

 (親父のやつ、どっから俺のこと見てたんだろ…、すぐに帰っちまったし、なんか、キモっ…)
 照れ隠しかはたまた正直な心の呟きか。
 刺されて倒れた後、死ぬかと思ったときに父親であるルイのひどく心配そうな声が聞こえ、複雑な心境も相俟って命を繋ぎ止めたと言っても過言ではないくらいだった。


 約束の頃をすでに過ぎていたが、屡薇は改めて真依のもとへと向かっていた。
 急いでいることもあり、今度はタクシーで。



 (にしても、やっちゃったな、俺…)
 そして、流れてゆく夜景へ視線を送っている屡薇には、きちんとわかっていたのだ。

 (あれは、…薔ちゃんのことだったんだ…)

 と。




 目映いくらいのネオンを見ていると、街はまるで闇というものを知らないかのような錯覚に陥る。
 どこにでも、暗闇は潜んでいるかもしれないのに。
 誰にも気づかれないように、ひっそりと根を張りながら。



 (頼むから…、変なこと考えないでくれよ?薔ちゃん…)
 屡薇は、どうしても気がかりだったその言葉を心に浮かべ。

 真依のもとへと向かっていた。

 途中、念のため彼女に二度、電話を掛けたが、二度とも彼女が電話を繋ぐことはなかった。

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