※※第92話:Make Love(&Drop).38






 「要ーっ!可愛い我が弟よ!」
 「兄さんの頭は、油脂の塊ですか?」

 はしゃぎだした奏だが、弟の表情は相も変わらず険しく。


 「暮中、三咲、すまなかった、今日はバイトなんだろう?これには構わず行ってくれたまえ。」
 「あぁ。」
 「おおっ?」

 醐留権が促さずともそうしてたと思われますけど、似てない!と驚いているナナの手を引いて、薔は時間もあまりないんで構わず帰ってゆきました。


 「なんだ、要の生徒だったのかぁ!」
 「それより兄さん、ヅラはどうするんですか?」
 「あああああ!」








 ……パサッ、

 お兄さん、ご安心ください、カツラならちゃんと、

 薔が学校の並木のどれかに、放って被せてゆきましたので!







 「とりあえず兄さん、車に押し込んでおいてもいいですか?後で家には連れてきますんで、」
 「おお、いいとも。要の愛車はどれかな〜?」
 「黙っててもらえませんか?」

 キョロキョロする兄を、醐留権は脇に抱えて颯爽と歩いていった。



 ……似てないにもほどがある。

 既に何人かの目には留まっちゃっておりますんで、目を疑いたい気持ちを皆さんは押し隠しきれません。






 バタン――――――…

 ほんとうに兄を車の中へ押し込むと、パンパンと叩いて両手を払ってから、醐留権はきびすを返し歩きだした。


 そして、

 「……おや?」

 しばらく歩いてから、眼鏡をくいっとさせました。




 じぃぃっ

 とこけしちゃんが、正面玄関からちょっとだけ顔を出し、彼をニコニコ気まずそうに見つめていたからだ。


 気づかれたこけしちゃんは、ぎくぅぅっとしたのだけど、

 「桜葉、まさか、見ていたのか?」

 醐留権は彼女へと駆け寄っていった。




 「エヘヘぇ、ゾーラ先生ぇのお兄さぁんてぇ、なんだか個性的なのねぇぇ。」
 「情けないほどに、禿げている部分以外は父にそっくりだが、」
 醐留権は、苦虫を噛み潰したように言いまして。



 しかし、こけしちゃんにはとっても気になるところがあって、

 「でもぉ、ゾーラ先生ぇ、」

 相も変わらずちょっとだけ顔を出したまま、尋ねたのだった。

 「お兄さぁんのことぉ、嫌いなのぉぉ?すごぉくゾーラ先生ぇのこと、可愛がっているように見えたけどぉ、」

 と。





 「いや、実は…」

 非常に言いにくそうではあるが、醐留権はきちんと答えました。

 「私は、兄からは、多大なる迷惑を掛けられた思い出しかないのだよ……」

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