※※第115話:Make Love(ClimaxW).57







 時間が止まってしまったかのようで、部屋は静かに凍りつく。





 ツ――…

 コートを脱ぎ捨てた竜紀は、ゆっくりと薔の頬に触れた。


 「あぁ、夢みたいだ…」
 そのまま冷たい手は、なめらかな肌を滑り落ちてゆく。


 薔はただの一言も、言葉を発しない。






 辿り着いた首筋を、舐め回すかのように竜紀は撫でていたのだけど、

 グイ――――…

 そのまま後ろへとまわし、薔の顔を持ち上げた。



 「はぁ……」

 くちびるが触れそうで触れない距離で竜紀は息を荒げ、ふたりは見つめあう。




 「どうして、何も言わないの?俺に会えたことが、そんなに嬉しい?」

 まるで抱きしめながら、クスクスと笑う竜紀だったが、


 フッ――…

 突然、不敵な笑みを浮かべた薔は、はっきりと口にしたのだ。


 「あー、やっぱもう何ともねぇな、」







 「え……?」
 竜紀からはふと、微笑みが消えて、

 「邪魔者は消えたんじゃねえ、現れたんだろ?」

 ぐいっ

 その手を強く引き剥がすと、薔は笑って言ったのでした。


 「まぁ、桜葉でもここにいりゃあ、ちったあ喜んだかもしんねぇがな。」


















 ――――――――…

 「くしゅぅっ…」

 こけしちゃんは走りながら、小さくくしゃみをした。


 「こけしちゃん!?風邪!?」
 走りながら、ナナは慌てる。



 「違うと思うぅぅ。」
 「それならいいけど、いざとなったらわたしに移していいよ!」
 「ナナちゃぁん、そんなことしたら後がこわいよぉぉ。」
 「えええ!?」

 ……案ずることなかれ、大絶賛風邪じゃないから!






 一足遅れて、羚亜と愛羅も合流し、

 「会場のみんなからは、記憶消してきたから大丈夫!」

 外へ向かってまっしぐら、みんなして全力疾走なのでした。










 ――――――…

 会場では無事、ライヴが再開されていた。




 「あ〜あ、」

 歓声に混じって、誰にも聞こえはしない呟きを屡薇は漏らす。

 「ああいう親父だったら、俺の人生も少しは違ってたかな、」








 「なんて言ってみても、みっともねえだけか、」
 次に彼は笑うと、盛り上がっている客席を見つめ、

 「ヴァンパイアの前に、人として認められた方が早ぇかもな。」

 一生懸命にギターの弦を、弾いたのだった。

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