※※第114話:Make Love(+Nightmare).56
花子はただ、眠っているだけのようだった。
しかし、こんな時にこんな場所で、眠りに就くのはどう考えても妙である。
自分のことなどそっちのけで、薔が花子を獣医に診てもらおうと決心した、そのときだった。
「大丈夫、眠らせただけ。一時間もすれば目を覚ますよ。」
後ろから、やけに穏やかな、男の声がした。
――――――――…
一曲目が、演奏されてゆくなか、
(どうしよう…、苦しい、息が……)
ナナは眩暈すら覚え、ゼェゼェと胸元を押さえた。
(帰らなきゃ…)
その一心で、キーホルダーを返してもらうべく前進しだす。
ところが、夢中になるオーディエンスがそれを頑なに阻止し。
ゴク…
息を呑んだナナはとうとう、指輪に手をかけた。
男の声には、聞き覚えがあった。
それは、あの苦痛と恐怖を植え付けられた、今から約12年前に。
薔はゆっくり、無言で振り向く。
秒針の音がやけに大きく、凍りついたこの部屋にはリアルに響いて。
「やっと再会できたね、薔、」
12年前とまったくおんなじ姿で、竜紀はそこに立っていた。
熱は悪化する一方なのを、まるで見透かすかのごとく、
「俺の思った通りだ、君は最高に美しくなった…」
動けずにいる薔へと、竜紀は一歩一歩、静かに歩み寄る。
「邪魔者は、消えたよ?」
そのまま、モスグリーンのコートへ手を掛けて、
「だからこの部屋中が、真っ赤に染まるくらいにさ、」
竜紀は不気味なほど穏やかに、笑ったのだった。
「君を犯してぐちゃぐちゃにして、食べてあげるよ……」
…――――Is this the last?
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