※※第114話:Make Love(+Nightmare).56







 バタン――――――…


 ドアが閉まる音に、花子は顔を上げた。




 「はぁ…………」

 部屋の明かりも点けず、薔はソファへ横になる。


 タタタタタ…

 すぐさま駆け寄った花子は、ペロペロとご主人さまの頬を舐め始めた。



 「花子…、ありがと……」

 消え入りそうに笑い、薔は花子のあたまをなでなでする。







 このとき、花子だけが気づいていた。

 1月の寒いなか、薄着で必死に駆け回っていた薔は、

 かなりの熱を、すでに出しているのだということを。








 「クゥン…」
 花子の悲しげな声が、暗く冷えきった部屋に響く。


 「心配すんな…、俺なら、大丈夫だ…」

 そんな花子を安心させるように、やさしく微笑むと、

 スゥ――――…

 薔は意識を失うように、しばしの眠りへと就いた。

















 ――――――――…

 バタン

 男が帰宅をしたのは、日付が変わった真夜中のことだった。


 ヒーターはとっくに消えており、冷たい床のうえで泣き疲れたナナは眠っている。


 「ちゃんと逃げずにいたんだ、」
 屡薇は笑うと、テーブルに缶ビールの入ったスーパーの袋を置いて、

 「健気だね、いつまでそんなん、してられるか、」

 プシュッ…

 1本、開けた。





 「言っとくけど俺、本物って大嫌いなんだよねぇ、すげえ傲慢で、」

 そして、笑う。

 「まぁ、ヤりたいときにはヤらせてもらうけど、」









 薄明かりの中、思い出したくない過去を思い出した屡薇の瞳は、左右の色が違ってきて。

 「“あいつ”は、本物だったから俺を捨てたんだ、」


 グシャリ…

 空になったビールの缶を、片手でひねり潰した。





 「だから愛なんて、端から信じちゃいねぇよ。」

 何を嘲笑っているのか、それは自分のような気もして。
 屡薇は2本目のビールを開けようとしたのだけど、ふと、両目を覆って苦しげに呟いた。

 「信じれば信じただけ、待ってんのは裏切りだろ?」

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