※※第114話:Make Love(+Nightmare).56







 途中まではタクシーで来たが、道路が混んでいるため空港へは走って辿り着いた。


 「はあっ、はあっ、」
 息を切らす薔はゲートをくぐり、必死でナナを探す。





 どこにもいないうえ、やたら目立っているわけなんだけど、


 「薔じゃねぇか、」


 突然、よく知ったハスキーヴォイスが彼を呼び止めた。





 振り向いた薔は、小さく口にした。

 「…………夕月さん、」










 夕月はこれから、仕事があるためいったんパリへと発つ予定だった。
 それでも少ない荷物を手に、薔へと歩み寄る。




 「どうした?お前、やけに薄着だな、」
 心配そうな声を掛けると、

 「なぁ、」

 薔は心ここにあらずといった雰囲気で、少し遠くを見ながら問いかけてきた。

 「ナナを、見なかったか?」








 「見てねぇな、いたらすぐにわかるだろうが、」
 そう答えた夕月は、彼の肩、黒い服が裂けて色が変わっているのを、見逃さなかった。


 「そうか、」
 微かに笑って呟いた薔のまえ、夕月は荷物を床に置くと、

 ふわっ…

 着ていたコートを脱ぎ、彼に羽織らせたのである。

 「外は寒い、これでも着ていきなさい。」









 様子がおかしいことは、嫌でも一目でわかったが、

 ぎゅっ…

 「……悪りぃ、」

 コートを掴むと少し俯いて、薔はもときた道を歩いていった。


 「良い…空の旅を。」

 それだけ言い残して。














 「…あんなあの子は、初めて見たな、」

 夕月は荷物を手にし、その背中を見送ると、

 「ナナちゃんはまだ、親権者の同意書が無えと飛行機には乗れねぇはずだ、」

 急いで、ある人物に電話を掛けた。


 「あぁ、如月、悪りぃが今すぐ戻ってくれ、パリはお預けだ。」

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