※※第114話:Make Love(+Nightmare).56







 「お断りします、わたしはあのひとのところへ帰らせていただきます。」

 ナナはきっぱりと、言葉にする。


 「いいじゃん、10年経ったらまた会いに行けばさぁ、でもそんときはもう、他の女と幸せになってるか、」
 屡薇は笑うと、

 「だってあいつ、家族全員死んだんだろ?」

 おそらく、一番痛いところを、突いてきた。

 「だったら、子供産めねぇあんたなんかより、他の女といたほうが幸せになれるに決まってんじゃん。」








 「――――――――…」

 ナナは、黙り込む。


 「本当に愛してるなら、別れてやりな。それが彼のためだよ、」
 屡薇は灰皿に煙草を押し付け、消すと、

 「俺はこれからメンバーんとこ行ってくるから、夕飯は自分で何か作って食ってて。」

 そう言い残し、ギターケースを肩に下げると部屋を出ていった。

 バタン――――――…








 ガチャリと、施錠がされた音がして、

 「………………、」

 ナナはようやく、部屋が暗いということに気づく。


 ……今、何時だろうか……




 携帯は来る途中、屡薇に取り上げられていた。

 そして男は勝手に操作をして、GPS機能をオフにしてしまってようだ。




 月明かりのなか、ナナは左手にしていた腕時計を見つめる。



 ぎゅ…

 時間なんて、とてもじゃないがあたまに入ってこなくて、

 「うぇぇ……」

 腕時計を抱きしめるようにしてうずくまると、ナナはひとり咽び泣いた。










 ……そうだよね、

 わたしは、子供産めない、ヴァンパイアだもんね、

 人間の女の人と、一緒になったほうがいい、

 あのひとのためにも。






 張り裂けそうなこころに、死に物狂いで言い聞かせる。







 しかし、これより先、痛いほどに知ることとなるのだ。




 ひとは、大切な、“だれかのため”を想うとき、

 そこには、ほんの少しでもいい、“じぶんのため”をも、同時に描かないと、


 それは、だれのためにも、

 なりはしないのだということを。

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