※※第103話:Make Love(so Captive).47






 「あっ!」
 “GEMUMILK”と書かれたそのパッケージで、ナナは何となく思い出せまして、

 「あぁ、そうだ、」
 男は何かを思い出した様子で、いったん戻ってきたのだ。



 ナナが、思い出せたことを報告するより早く、

 「あげる、一口分。」

 その客は、ゲムミルクを持っていないほうの手を、差し出して言った。


 「俺、“あんたのよりは先に出られねぇから”、よろしく伝えといて。」

 と。









 「はい…?」
 意味がまったくわからずキョトンとしたナナの、ユニフォームのポケットに黄色いラベルを10枚、舞い落とすと、

 ひらひら

 と手を振って、男は再びレジへと向かって行ったのでした。





 ナナは首を傾げてから、商品の入れ替え作業に戻りまして。
 男の接客は、元気よく店長さんが対応した。










 …――そう、

 時に棘を持つ、美しきその花は、

 ふたつの真名で成り立ってる。

















 ――――――――…

 墓地へは車で片道一時間ほど掛かったため、途中で夕月の提案により如月も揃っての遅めの昼食となり、とりとめのないことを話してから再び帰路へと就いたのです。






 帰り道。

 リムジンの運転席と後方は、遮断された仕様になっておりました。



 しばし景色を見ていた、秀美なその横顔に、

 「なぁ、薔、」
 「ん?」

 夕月は本題とも言えぬような本題を、切り出したのだった。

 「ナナちゃんがいて、お前は本当に幸せなんだな。」













 ――――――――…

 「なんだよ、いきなり、」
 薔は笑ってから、再び車窓を見つめ、

 「幸せだよ。でもあいつといると、時々息が止まりそうなほどに苦しくなる、」

 ふっと、とてもやさしい眼差しで告げました。


 「毒みてぇで薬みてぇな…、最高に厄介で最高に愛おしい、俺のすべてだよ、あいつは。」










 「そうか、」
 夕月も、笑って返した。


 「ありがとな、それが聴けただけで、俺はじゅうぶんだ。」

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