※※第100話:Make Love(in Bathroom).45







 元チーフの魂は特にどこにも出ることなく、いったん帰ってまたお迎えにきた薔と、ナナは仲むつまじく手を繋いで帰ってゆきました。



 ナナと入れ替わりの店長さんは、せっせと働いております。

 元チーフも珍しくか、消耗品の補充やなんかをしている模様です。




 すると、

 タン――――…

 ひとりの客が、レジに一日中緑茶を1本、置いたのである。


 「いらっしゃあせ〜、」
 何かが後退している元チーフは、金髪で細身のその客へと、あふれんばかりの営業スマイルを向けた。




 バーコードを読みとろうとすると、

 「残念、今日はいねぇんだ、」

 サングラスをかけた男は、笑っている。




 元チーフはそちらについて特に触れることもなく、接客を終えて見送った。
 男は一万円札を出してきたので、釣り銭の勘定にはいささか手間取った。














 吐く息は白く。

 冷たい夜風に棚引く。



 「動き出すのは、年が明けてからだな、」
 ペットボトルを片手に、歩きながら男はくわえ煙草で。


 「やっと俺も、“一人前”になれる…」

 そう、屡薇は、笑って言った。

















 ――――――――…

 帰宅してから、ナナはやはり腹ペコでしたので、花子も揃ってのお夕食タイムと相成りました。
 すでに準備は、できてましたんでね。


 この日のお片付けも、是が非でもとナナが買って出たため、ふたりで分担することとなった。








 ジャア――――…

 後片付けを無事に終えたナナは、しっかりと手を洗っていた。
 元チーフに握られたからでは、ないとは思いますが、それより、二日連続キッチンだったから後片付けをどうしてもやりたかったのか?



 そんななか、

 トコトコ…

 と歩いてきた花子が、

 くいくいっ

 とナナの足をつっついた。



 「花子ちゃん、どうしたの?」
 タオルで手を拭きながら、ナナが隣を見ると、尻尾を振る花子はテーブルのほうへとチラチラ視線を送っている。

 「んん?」
 何事かと思い、ナナもそちらへ目をやった。








 はい、いつの間にか薔は、テーブルに臥して寝ちゃっておりました。




 (かわいい――――――――――――っ!)
 そして写真撮れるかも!





 「あああああ、花子ちゃん、教えてくれてありがとう…!」
 ものすごく小声で礼を述べたナナの隣、花子は尻尾をブンと振って返す。



 音を立てないように慎重に、そろりそろりと近づいて、

 ふわ…

 そうっとナナは、彼のやわらかな髪を撫でてみた。



 (ここから見えるまつげが、やっぱり長いよ!そして触り心地が、よすぎるんだよ!おまけに、いい匂いだよもーうっ!)
 しみじみとそのまま、撫でていると、

 ぎゅ…

 突然、やさしく手首を掴まれたのだ。




 ドキッ!

 動きを止めざるを得なかったナナは、左胸で心臓を切なく跳ねさせ、

 「そんなんしてっと、襲っちまうぞ?」

 ゆっくり起き上がった薔は、甘い声で微笑んだ。

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