※※第98話:Make Love(&Knife).44






 「な、何をなさるんですか…?」
 少しだけ離され、ドキリとしたナナは尋ねてみる。

 「別に何もしねぇよ、」
 薔はナイフを、ゆっくりと引くと、

 「おまえにはな、」

 笑って、

 ビッ――――…

 自身のトップスを、ナイフで切り裂いた。





 「何てことをなさってるんですかぁっ…!?」
 すぐさまナナは、後ろへと向き、

 ツ――…

 裂けて覗く薔の胸元は、ちょうど真ん中あたりに血液が伝ってゆく。




 カランッ――…

 血染めのナイフはシンクへと、滑るように落とされた。




 彼の妖艶な美しさに、ナナは思わず言葉を失い、

 「まずは唇だな、」

 薔はゆびに、その赤を取ると、

 プッッ…

 弾くみたいにしてナナのくちびるへと、血のルージュを引いていった。




 ゴク…

 息を呑む、ナナ。




 鮮やかに、染まってしまうと、

 「まだ舐めちゃダメだぞ?」

 くちびるが触れあいそうな距離で、薔は笑って焦らします。

 「あ……」
 大好きな匂いにもやさしく包まれ、それだけでナナは立っていることがままならない。

 そんな彼女の服には血液が付着しないようにと、包むように薔は抱きしめてくる。



 「はぁ……」
 誘われて、視線を絡め、熱い吐息も混ぜあう。




 やがて、

 「ナナ、」
 「はい…」

 頬を撫でながら、薔は囁いた。

 「おかしいくれえに、俺は、おまえのことばっかだ…」

 と。






 「狂わせるんだよ、おまえが、こんなんいくら流しても足んねぇよ、」
 切なげに告げる彼のすべてが、ナナの胸を愛おしい痛みで締め付ける。

 そして、

 「こんなに好きにさせて、どうすんだ?もう、苦しくて仕方ねぇんだよ、」

 潤んだ瞳で、薔は少しだけ笑って、愛でこころを突きさした。


 「それでも、俺はおまえを、どこまでも好きになるしか出来ねえんだよな……」









 「う……」
 堪えきれず、ナナの瞳からは涙が溢れだす。

 「泣かせてばっかだな、ほんと…、その涙に濡れた目で、俺を見てみろよ、」
 髪を撫で、そうっと促されたため、ナナはうるうると瞳を開いた。




 その瞳を、ナイフのように見据え、笑いながら薔は言った。


 「歪んだ愛し方しか出来ねえ、醜いだろ?俺は。」

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