※※第98話:Make Love(&Knife).44







 この日、ナナ以外には店長さんも元チーフも誰も都合上シフトには入れなかったため、もう一つ経営しているという店舗から、助っ人が参上して共にお店を回すこととなった。
 助っ人は、大学生くらいではないかとも思われる、若いお姉ちゃんでございました。



 きちんと軽く挨拶を交わしてから、ふたりして仕事に取り掛かったのだけど、

 「三咲さんて高校生なんだあ、いいな、若〜い!」
 「あ、ありがとうございます、」
 わりと助っ人はおしゃべり好きなお姉ちゃんのようで、年齢について感嘆の声を上げられたナナは、複雑な心境にもペコリとあたまを下げる。


 「彼氏とかいるの?」
 「は、は、はい……」
 「だよね〜!いいな〜!」
 頬を赤くして正直に答えたナナの隣、けっこう声を張り上げる助っ人お姉ちゃん。


 「あたしは理想が高過ぎて、未だに彼氏いないのよ〜。できれば、顔よくてスタイルよくて、エッチが上手くて料理も上手い人がいいんだけど、そんな人いないよね〜。」
 「そ、そうなんですかぁ、」

 このときナナは、“ぜんぶ当てはまってる。”と思っていた。



 「あ!ではわたくし、掃除してまいります!」
 「やだ〜、ありがとう〜!」
 このままいくとどんどんおしゃべりが深みにはまると悟ったナナは、急がしそうに店内の清掃を開始したのであった。














 (えええ!?ザザえもんの、バ、バスタオルプレゼント!?)
 ドリンクコーナーにて心踊るキャンペーンを発見してしまったナナは、輝く瞳でその“一日中緑茶”という商品を手に取ってみた。

 (すごいよーっ!29種類もあるって!え?このラベルとやらを集めれば、抽選でもらえるんですかぁ!?)
 抽選だともらえない場合もあることを知っているのかいないのか、とにもかくにも内面で大はしゃぎのナナはまじまじとそのペットボトルを眺めております。







 そんななか、ひとりのお客様が来店いたしまして。

 「いらっしゃいまっせ、」
 ファッション雑誌を読んでいた助っ人お姉ちゃんは、とりあえず顔を上げた。


 バサッ――――…

 そしてファッション雑誌を、床に落としてしまったのだ。

 (未だかつて見たことないレベルの、イケメンきたあああ!)









 助っ人お姉ちゃんは真っ赤になってぶるぶるとふるえながら、その“未だかつて見たことないレベルのイケメン”を目で追っていたのだけど、


 「ほぎゃあ!」

 ドリンクコーナーで何かを真剣に見ていたバイト上では相方が、彼に後ろから何かを話し掛けられ、真っ赤になって雄叫びを上げたのである。






 (え?まさか、知り合い?)
 助っ人お姉ちゃんは、まずそちらの可能性を疑ってみた。


 ところがふたりは、一緒にこちらまで歩いてきまして、

 「おまえな、バイト中あんなんに見とれてんじゃねぇよ、」
 「見とれてたのではありませんて!そもそもわたしは今まさに、薔に見とれておりますけど!」

 とか言う会話から、お姉ちゃんはだいたいを察することができたようだ。


 「とりあえずこの店のだけ、買い占めてやるか?」
 「いいですってばーっ!わたしがほしいのは、あの、ラベルとかいうやつだけでございますので!」
 「あ?」
 「あっ、いえ、お茶に限ってのことです、お茶に限ってのこと!もちろん一番ほしいのは、あの、そのっ、」










 (羨ましすぎるんだけど…、秘訣とか聞いてもいい?)

 唖然とする助っ人お姉ちゃんよ、いい加減、売り物なんでそのファッション雑誌拾い上げてくださります?

[ 117/538 ]

[前へ] [次へ]

[ページを選ぶ]

[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]


戻る